MOMONGA
ふと抱いていたぬくもりが消え、目を覚ますと手洗の明かりが灯いている。
あぁ……と納得しかけて、気付いた。
──何故、ドアが開いている?
駆けつけて見たのは、便器に伏せり声を押し殺して嗚咽するサユキの真っ白な背中。
あんなに美しく盛られていたディナーの品々が、見る影も無く汚水に浮いている。
それに顔を押し込め、濁った目で見つめていたサユキの浮いた背骨に手を添えるモモンガ。
「ひとまず、吐けるだけ吐いた方が良い。……辛かっただろう」
ピク、と頭が震えて、涙の落ちる音がした。
「……もう、大丈夫です」
ご心配をおかけしました、とぐらつく身体を起こすサユキは、明らかに無理をしている。
他人行儀な微笑みを浮かべ、素早く片付けを終える姿は、ひとつのメッセージを発していた。
“これ以上は踏み込まないで”、と。
「尋問でもあるまいに、無理に聞き出すつもりはない。だが……」
「私は、いかなる傷からもお前を守ると決めている。…………重い荷は、分かち合うべきだろう」
そして、その相手は私であってほしい。
細い肩に手を置き、仮面の奥を見つめると徐々に傷口が浮かび上がってくる。
とめどなく溢れ柔らかい頬を伝う、透明な心の血が。
***
モモンガは、真相を知っても
「夢は記憶を整理する際に見るという。お前のそれは、今夜に似た経験として紐付けられていたのだろう」
「誰しも忘れ難い経験というものはある。それはそれとして、よく休むといい」
と冷静に分析して、今ここで何をすべきか袋小路から導いてくれる。
サユキ、割り切って良いんだよ。
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