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最初にあいつを見た時、なんか弱そうな奴だなと思った。
そもそもヒーロー科じゃない時点で論外だったし、ただのモブだと結論付けた。
なんか知らねぇけど絵を描くらしいと聞いて余計にどうでもいいと思ったものの、模擬戦の順番を待ってる間暇だったから近くに寄って見てみた。
後ろに立ってても全く気付かねぇし、警戒心無さすぎだろ。イラついて横に座っても気付かねぇから、怒鳴ってやるかと目を見たら金色に光ってた。
こいつ、こんな目の色してたか?
そう思ったら目が離せなくなった。夢中で、楽しそうで、言い方きめぇけどキラキラしてるっつーか。
目の色が茶色になった瞬間、びっくりした様に俺を見た。今気付きましたってか。そういう個性らしいけど地味すぎんだろ。…で、片付けられない何かがある気がして若干イラついた。

模擬戦中に助けてしまったのはもはや反射だった。別に、こいつがどうなろうと俺の知ったこっちゃあ無いしな。
クソ髪が砕いた岩が飛んだ先に、たまたま俺が向かっただけ。そういう事だ。

その後にもあいつお礼とかクソ程いらねぇのにまじで、意味がわかんねぇ。
ジュース渡して素直に礼言ったかと思えば俺に怒鳴ってくるし、よえぇ癖に突っかかってくるから俺も突っかかっちまうのは、しょうがねぇだろ。

売り言葉に買い言葉だったが、こいつが描く絵はどんなもんだろうと思った。純粋に興味が湧いた。そん時、何でかあのキラキラした目を思い出してた。

あいつが描いた俺を見た時は思わず見入ってしまった。俺は絵の事とか全然分かんねぇから、それがすげぇのかどうかは知らねぇ。
けど下手ではない……と思う。それを言うのは癪だったから、その絵はそのまま突っ返した。
褒めたりもしてねぇのにふにゃふにゃ笑いやがって、締まりねぇんだよクソが。
腹立つから顔に付けてたパンのクズを取って食ってやったら一気に真っ赤な顔になった。んだよ、こんな顔も出来んのかって笑った。

USJの事件の後も声を掛けてきた。そん時はたまたまイラついてた時で、余裕が無かった。
別に気遣う相手でもねぇから気にせず話してたら、あいつは傷ついた様な顔をした。
あ?俺がなんか悪い事したか?
あいつと一緒に居た奴も気に食わねぇし、傷ついた様なあいつも気に食わねぇ。
イラついた気持ちが増しただけでその日は終わった。
ただ、もう一つくらい文句言っとかなきゃ気が済まねぇと思ってLINEを送った。
俺は心配されなくても敵相手に怪我なんかしねぇし、あいつに心配なんかされたくねぇんだよ。
でもまぁ気にしてねぇのか普通に返事がきたが、それを見てイラつきが軽くなった様なアレはぜってぇ気のせいだ。

つうかあんなブス猫のスタンプどこで見つけてくんだ。クソが。可愛くねぇ。




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それから、よく飯を一緒に食う様になって分かった事がある。
あいつはパンしか食わねぇ。
毎日一緒じゃねぇから実際のところは分かんねぇけど、校舎裏に来る時は絶対パンを持って、しかも振り回しながら来る。一回ぶっ飛ばしてるところを見た時はやっぱアホだと思った。

今日も予想通りパンを持ってきた。正確にはサンドイッチだったけどそれぁいい。

「おまたー」
「ん」

ふにゃっふにゃな顔してパン食ってる横顔は、なんつうかアホっぽい。いやアホだ。
なんか腹が立ったから頬張ってる奴の鼻をつまんで塞いでやる。

「ふぐぉ!?ばふほー!?」

暫く塞いでたら暴れだしたから離してやったら、涙目でパンを飲みこんでたので満足感が沸く。

「なにすんだ爆豪この野郎……」
「てめぇがアホ面してっからだ」

理由になってねぇよ!とか文句を言ってるが無視だ。
ぎゃんぎゃん文句を言ってたが俺が応えないから諦めたのか、食い終わったアホは絵を描き始めた。大体いつもそうだが、俺は携帯を弄ったり漫画を読んでたりテキトーにしてる。

この静かな空間が嫌いじゃないってのは認めたくねぇ。
絵描いてる時の絵藤のキラキラした目も。それが今俺に向けられてる事も。

多分、これは死んでもコイツには言わねぇだろう。

「なぁばくごー」
「あ?」
「明日の実習お邪魔するから、また良い感じのよろしく」

ふにゃふにゃ笑ってそう言うこいつが、なんか眩しく見えた気がして目を細めた。まじ、クソかよ。





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