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昨日の実習中、ヒーロー科1-AがUSJで敵連合とかいう集団に襲撃された。
その噂を聞いた時、まず真っ先に全員の無事を確認したけど、先生と生徒1名が怪我をしただとかで気が気じゃなかった。
その1名が爆豪ではないという確証がなかったから。
あいつは強いし大丈夫だと思うけど、サポート科に居る以上詳細な情報は入ってこなかった。

「(ヴィラン襲撃の事聞いたけど、無事か?)」

朝聞いてからすぐ爆豪にLINEを送ったけど、返事はおろか既読にもならない。
休み時間にでも確認しに行きたいと思うのに、今日に限って午前中はずっと校外で実習で。だから姿を探す事も叶わず、めちゃくちゃ歯痒い。何で今日に限って!そと!
そわそわして全然授業に集中出来なくて、クラスメイトに心配されるわ、先生には怒られるわで散々な午前中だった。


「あっ!爆豪!!」

午前の実習を終えて購買に向かう途中、見慣れた後姿を発見した。

「あ゛ぁ?…んだてめぇかよなんだ」

駆け寄りながら名前を呼べば、いつも通りの爆豪が振り返る。パッと見た限り、とりあえず怪我とかはしてなさそうで、なんか凄い安心感が湧いてきた。

「や、昨日襲撃あったって聞いて心配で、怪我とかしてねぇかなって…。ってか!ちげぇよ俺その事でLINE送ったのに何で見てくんねぇの!?」

無事を確認してホッとしたら、沸々と怒りが湧いてきた。いつもしねとかうるせぇとか適当にすぐ返事寄越す癖に!

「は!?るっせぇよ家に携帯忘れたんだわ見れっかボケ!」

〜〜〜〜っんで忘れてんだよどんだけ心配したと思ってんじゃぼけぇぇぇ!

「携帯忘れたなら忘れたって言っとけよ俺の心配返せや!!」
「携帯ねぇのにか!?あぁ!?どうやって言えってんだおめぇまじでアホだな!!」
「アホって言う方がアホだわ!!」

別に喧嘩しに来た訳じゃないのに、途端に低レベルな喧嘩になってしまう。でもまじアホアホ言い過ぎだわ俺別にそんなアホじゃないし。

「っつうか、てめぇに報告する義務なんてねぇだろが。うるせんだよ」
「…ッ、まぁ、そう、だけど」

その言葉に勢いが無くなる。爆豪の言うとおり、俺には関係無い話かもしれない。

「海人、喧嘩してないで行くぞー」
「ッあ、悪い佐野……」

佐野が居た事すっかり忘れてた。そっと顔を見れば優しく笑ってて、背中を押されて教室へと促される。
いや、でもまだ……。
爆豪に声を掛けようとしたら、まだ話は終わってないってのに、舌打ちしながら食堂の方へ向かって歩いていった。


爆豪が冷たい。
敵と戦った時の事とか、どういう心境なのかとか、戦えない俺からしてみれば全部未知の事だ。
ヒーローを目指してるあいつにとっては何て事ないのかもしれないけど、危険な目に合ったり、友達が怪我したりすんのはやっぱ嫌だ。って思うのは、俺のワガママなんだろうか。

「元気ないぞ、大丈夫か海人」
「うぇっ」

教室に戻ってきて、前の席に座ってる佐野にデコピンされて思わず変な声が出た。
心配そうな顔をしてこっちを見てて、なんでか余計にへこんでしまう。

「最近俺と一緒に飯も食ってくれないし、佐野くん寂しいなー?」

語尾にハートマークでも付いてそうな声で言われて、つい笑ってしまう。佐野なりに元気付けようとしてくれてるんだろうな、これは。
ごめん、大丈夫だから、ってへらっと笑う。わしわし頭を撫でられたけど、あんまり気持ちは晴れなかった。



夜、浮かない心境のまま帰ってきた家。
晩飯も適当に済ました後、机の上にスケブを広げながら暫くぼーっとしてる。何か描かなきゃなって思ってるのに、今日の事を考えるともやもやしてペンが全然進まない。

「う゛〜〜〜〜〜……」

ギブだ。鉛筆を机に放り投げて、ぐあーっと伸びをしたところでピロピロと携帯が鳴った。
伸びたついでにベッドに放り投げてた携帯を取って画面を見るとLINEの通知。爆豪からでどきっとした。
恐る恐るLINEを開く。

「(怪我なんかしねぇから心配すんなぼけ)」

「ふへっ」

力の抜けた笑いが漏れてしまったのはしょうがないと思う。
ぼけとか言われてるけど、顔文字も絵文字も無くて愛想もクソもないけど、さっきまでのもやもやはどっかに吹っ飛んでった。俺の心配は一応、ちゃんとあいつに伝わってたみたいだ。
ハートを一杯飛ばしてるあのぶっさいくな猫のスタンプを送ったら、やっぱりしねって返ってきた。





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