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つい先日行われた雄英体育祭で、なんとあの爆豪が一位の座に輝いた。
俺はと言えば、戦闘センスなんて皆無の非力野郎だから、最初っから参加もしていない。あんな奴らと対等にやり合える気なんか微塵もしないから。
サポート科では発目が最終まで残ってたけど、あれはただの商売根性だからなぁ。すげぇけど、開発は出来ない…というか興味無い俺からしたらよくやるわって感じだ。
ヒーロー、元々諦めてた世界の話だ。んでも、こう、もやもやした気持ちを抱えてしまってるのは何でだかな。

「絵藤くん、僕の授業聞いてたかな?」
「いっ……き、聞いてますた……」

突然目の前に現れた先生にペンで眉間を突かれてハッとした。今は数学の授業中……、あー先生良い笑顔ですね〜〜怒ってる〜……。

「じゃあ黒板の問3を答えてくれる?」

聞いてたなら分かるよね、って念押しされてしまった。つらい。辛うじて分かる内容だったから何とか黒板に答えを書けたけど、たっぷり嫌味を言われて席に帰された。

「どんまい絵藤〜」

でっかい溜息を吐きながら席に座ると、隣の席のクラスメイトに笑われながら励まされた。お前は良い奴だよほんと。
さんきゅ、と告げた瞬間、ポケットの中で携帯が震えた。こっそり画面を覗いてみたら、通知元は上鳴で、なんだ?珍しいな。
っつーか授業中じゃねぇのかお前、って自分を棚に上げつつ短く返事を返した。


「海人、授業中ぼーっとしてるなんて珍しいな」
「あーまぁ……、俺もそういう日あるって」

授業終了を告げるチャイムが鳴った後、ふらっと佐野が現れた。微笑みながら俺の頭を撫でて気遣ってくれる。でも撫でないで欲しい。

「悩み事?俺で良ければ話聞くよ」

頭の上に乗ってる手を払いのけながら、んんっと唸る。付き合いの長い佐野には、どうせ隠し事とかしても多分バレちまうだろうな。

「やー、悩み事っつうか、こないだの体育祭、凄かったなーと思ってさ。1年は上位皆A組だったし、俺よく実習で一緒させて貰ってるけど、俺なんか足元にも及ばねぇなーとか、ご一緒してて悪ぃなーとか、いろいろ」
「ふぅん……?」
「俺自分でもなんかよく分かってねぇんだけど、ヒーロー目指すって、やっぱすげぇなって、そういうの見てたら眩しいっつか、なんつうか……」

本当に、自分の中でもまとまってない、よく分からない感情をそのまま吐き出してるって自覚はある。

「……海人、1位になった人と最近仲良くしてるもんね?」
「え…なんで知って」
「彼もヒーローになる為に頑張ってるんだろ?ねぇ、それって、彼の邪魔になってたり、しないのかな」
「ッ……」

ふふ、と佐野が見た事無い顔で笑うのと、始業のチャイムが鳴ったのは同時だった。




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「やーごめんなー絵藤。わざわざ来てもらっちゃって」
「構わねぇけど、どうした?上鳴から呼び出しとか珍しいじゃん」

放課後、昇降口で待ち合わせをして、現在近くのコンビニ前。小腹空いてるしって揚げチキンを買った俺と、焼き鳥串を買った上鳴。
車通りの多い道じゃないけど、だだっ広く作られてる駐車場の端っこに二人陣取って腰掛けた。車止めって良い椅子だよな。

「んー、まぁ、たまにはこうやって話すのも良いかなーと思って?」

焼き鳥食いつつニッと笑う上鳴を見ながら、言われてみれば確かに、中学からこっちゆっくり話す機会ってあんま無かったなって思う。

「上鳴と二人で喋るんとかいつぶりだよ、記憶ねぇわ」
「それは俺もー」

なんかこいつと喋ってると空気が緩むな。もちろん良い意味で。見た目に反して癒し効果がある様な気がする。

「……なぁ、絵藤さぁ、最近爆豪と仲良くしてるよな」

チキンうめぇな、とか思ってたら爆豪の名前が出てきてちょっとむせた。
今日佐野に言われた言葉がちらついて、振り払う様に咳払いをする。

「う、あーそうだな…なんか成り行きで……」

ふーん、ってテキトーな返事をくれた上鳴は、焼き鳥を食い終えて串をぷらぷら振ってる。捨てりゃいいのに。

「大丈夫か?」
「え、何が?爆豪?」
「んー、まぁ、……いじめられてねぇ?」

妙に神妙な顔つきで言われて頭の中はハテナマークだらけだ。あんな感じの奴とは言え、いじめとかしねぇと思うんだけど。

「はは、ねぇわ。なに、心配してくれてんの?」

にやにや笑いながら言うと、上鳴はちょっとバツが悪そうな顔をしてる。どうしたんだこいつ?らしくねぇな。

「心配……してる。だから何かあったら言えよ」

ほんとに真剣に言うもんだからきょとんとしてしまった。まじで、明日また雨でも降るんじゃねぇのか。





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