13

「んおう、ありがとな…?どしたんまじ珍しすぎてびびってんだけど……」
「いやー俺もヒーローらしく人に優しくしようかなーみたいな?絵藤たまに抜けてっからさー」

さっきまでの空気を散らすみたいにパッと笑顔になった上鳴に、バシバシ肩を叩かれる俺。心配されて嬉しいやらなんやらでむず痒い。

「抜けてるってなんだよ、俺ちゃんとしっかりしてっから!それ言うならお前だろ」
「俺は強いから大丈夫なんだよ!」

ぐっと握り拳を作ってヒーローらしく、頼もしく笑う。眩しいなぁヒーロー科。
上鳴もなんだかんだ雄英受かってんだよな、やっぱヒーロー目指す奴は違うか。
なんて、今日一日心の中にあったもやもやをまた思い出してしまった。なんだかな……。あの時の佐野は、なんだったんだろう。それに、俺、やっぱ。

「てめぇら何してんだんなとこで」
「あれ、ばくごー」

声がした方を見てみれば爆豪が居た。コンビニ袋を持ってるとこ見ると、俺らに気付かず先にコンビニに寄った後なんだろうか。
俺より少し遅れて気付いた上鳴が、びくっと肩を跳ねさせたのが分かって思わず吹き出してしまった。そんなびびんなくても良いのに。

「あああ爆豪、ちーっす……」
「ぶはっ上鳴…ッ、おま、個性使ってねぇのにアホ面ッ……ははっ!」

びびり過ぎてアホ面になってるの最高に面白すぎてツボに入ってしまった。爆豪を見れば凶悪な顔で上鳴を見てるし、二人の顔の対比がやばい。

「絵藤てめぇるっせぇぞ黙れ!」
「うはっはは、む、むり…ははは!」
「そうだそんな笑わなくても良いだろ絵藤ー!」

すげぇ顔で舌打ちされるし、もう一方ではおろおろされるし、もはや目の前の光景全部が面白い。笑いすぎて涙出てきたしめっちゃ苦しい。
っはーおっかしい!なんかさっきまでの色々吹っ飛んだ気がする。

「チッ……で?何してんだよ」

腹抱えて蹲ってる俺に聞いても埒が明かないと思ったのか、上鳴に話しかけてる爆豪。ごめんなちょっと今苦しい。

「……高校生らしくコンビニ前たむろ?」
「アホか」

首を傾げながらそう言った上鳴に、爆豪は心底呆れたって顔してて、またちょっと面白くなりかけたのをギリギリ耐える。これ以上笑ってたら多分キレられると思うし。

「やーでも!もう俺帰るからさー、爆豪絵藤送ってってあげてよ」
「「は?」」

パッと立ち上がってケツを叩きながら言った上鳴に、俺と爆豪の声が重なった。唖然としてる俺の手から揚げチキンのゴミを取って、焼き鳥の串と一緒にゴミ箱に捨ててくれた……のは良いんだけど、優しいんだけど!何故に俺を送る話になった?

「じゃ、よろしく!」
「ちょ上鳴!?」

俺の制止も聞かずに、上鳴はぶんぶん手を振ってさっさと帰ってしまった。

(昼間爆豪に佐野の事聞かれた時はやべぇかなって思ったけど、気にしすぎだったかなー……まぁ何かあったら言ってくれると信じよ)

そんなあいつが何を心配してくれてたのかなんて、俺が知る由もなく。



取り残された俺と爆豪は、ゆっくりとお互いの顔を見合わせた。

「あー、…帰ろっか?」
「言われなくても帰るわ」

ふんと鼻を鳴らして爆豪も歩き出したから、慌てて追いかけて隣に並ぶとチラ見された。何でついてくんだよ、とでも言いたそうな顔してる。

「俺もこっちだからさ、家。別についてってる訳じゃねぇよ」
「……そうかよ」

読まれたのが気まずいのか、ぶすっとしてるのが面白くてバレない様に小さく笑う。

「今日晩飯何しようかなー」
「あ?」

心の中で呟いたつもりが声に出ていたらしい。あー、とかうーとか唸ってたら舌打ちされてしまって、慌てて話し出す。

「や、うちの親仕事で基本居ないからさ、実質1人暮らしみたいなもんなんだよ。だから今日晩飯どうすっかなーって……声に出すつもりはなかったんだけど」

うへへ、と笑って頭を掻く。別に隠す事じゃないから構わないけど、こいつに気使われるのも嫌で今まで言わずに来てしまってた事だ。

まぁ今思えば、爆豪が俺に気使うなんて事ないんだよなーとか思うわけだが。





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