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夕焼けに染まる道を爆豪と歩くのは、新鮮だなぁなんて思う。

「お前料理とか出来んのかよ」
「んな凝ったもんじゃなきゃ出来るわ。あ、クソみたいな飯作るとか思ってんだろどうせ、言っとくけどうめぇからな?」

びしっと指差したらニヤリ、また悪そうな顔をする爆豪に嫌な予感しかしない。

「ほぉー……なら今から作れよ、晩飯。食ってやっから」

俺よりちょっとだけ背が高い爆豪に見下ろされて挑まれるのは、まぁ、悪くないとか思う。腹立つから負かしてぇって意味で!

「望むところだわ、ぜってーうめぇって言わす」
「はっ、美味かったら言ってやるよ」

戦闘とかでは勝てないけど、それ以外ではこいつに勝ちてぇって変な対抗心。とりあえず。

「じゃあスーパー行くぞ!」

ぐっと握った拳を高く上げて意気込む、帰る前にスーパーへ寄り道だ。
後ろでくつくつ笑う声が聞こえてきた気がしたけど全部無視だ、ばかやろー覚悟しやがれ。




近所のスーパーであれこれ食材を買い込んで、家の玄関前に立ってる俺。いつもみたいに一人じゃなくて、今日は後ろに爆豪が居るから妙にそわそわする。
誰かと一緒に帰ってくるなんて、いつぶりだろうか。

「鍵ねぇんか」
「あるよ……」

全然関係ないところの心配をされてちょっと緊張がほぐれた。そういやぁ爆豪は家で飯食わなくて大丈夫なんだろうか?

「飯んこと家に連絡したのか爆豪、作ってんじゃねぇの?」
「良い、ババアには連絡してる」

ババアとか言っちゃダメなんだぜ、とは言わないでおく。代わりに適当に返事をしつつ、玄関の扉を開けてくるっと爆豪を振り返る。

「いらっしゃいませー」

へらっと笑いながら出迎えれば、アホ、とだけ返された。けど本気じゃないだろうから気にしないでおこう。なんか楽しくなってきたしなって思いながら廊下を歩く。

「テキトーに座っててくれて良いからな」

食材を冷蔵庫に入れながら声を掛けると、爆豪は少し考えてからリビングのソファに座った。なにその間、遠慮したんかな。

「えらい広いな」
「んー、まぁ、社長さんだからなうちの親」
「は?」
「デザイン会社やってんだよ、それなりに売れてるっぽいわ」

片付け終えてから爆豪の隣に座って言えば、まじかよ…って爆豪が家をぐるっと見渡してて面白い。
割と立地も良い高層マンションだから、多分それなりの値段してんだろうなーと思うけど聞いた事ないから知らねぇや。

「…あれ、お前か」
「ん……?あー、うん、よく分かったな」

爆豪の視線の先にあるのは、壁の一角を埋め尽くしそうな程の大きさの絵画。
俺が中学の時に1年かけて描いた超大作だ。って、自分で言うとチープだけど、それくらいには頑張って描いたもので、展覧会ではちょっとした賞も貰えた奴。

「見りゃ分かる」

絵から視線を外さず言った爆豪の言葉に顔が熱くなる。あー、今こっち見られてなくて良かった、なんか恥ずい。
絶対こいつは無意識だと思うけど、そういうの、絵描いてる奴からしたらめちゃくちゃ嬉しい言葉だ。

「そ、か。どうも……」

返事がしどろもどろになってしまったからか、ちらっとこっちを見た爆豪が笑う気配がした。

「お前んだよその顔、ウケるわ」
「…っせぇハゲろ爆発さん太郎め」

バッと両手で顔を覆いながら悪態をつけば頭を叩かれた。痛いんだけど、もうなんかほんと、たまに爆弾投げてくんのやめてほしい。爆発さん太郎過ぎる。

「っはー!もう!飯作るわぼけ!」
「おう、美味くなかったら食わねぇぞ」

居たたまれなくなってソファから勢いつけて立ち上がり、早足でキッチンへ。心底楽しそうな爆豪の声が背中から追いかけて来たけど無視だ、無視。くっそ、あっちぃ。





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こうなったらめちゃくちゃ美味い飯を作るしかねぇ。
っていう意気込みで作り始めたら、作りすぎてしまった感が否めない……。
爆豪がテーブルの上に並べられた料理達をじーっと見つめてる。気合入れすぎたかなぁとも思うけど、もう今更だ。

「出来たぜ食えよ!」
「は、気合入ってんなぁおい」

にやにや、からかう様に言う爆豪に返す言葉が出ない。
から揚げとマカロニ入りのポテトサラダ、それとワンタンスープ。おかず足りなかったらあれかなと思ってもやしのナムルも作った。ちなみにちゃんと白飯は炊きたてです。
やってしまったもんはしょうがねぇから、後はこいつにうめぇって言って貰うしかない。





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