18

昨日の夜は皿洗いしてくれてる爆豪とか超レア、って思って見てたけど、今はなんと朝兼昼飯を作ってくれている。さらに激レアじゃねぇか。
爆睡してしまってた俺が飛び起きた後、とりあえず顔洗ってこい、って文字通り蹴り出されて戻ったらこの状態で、リビングのドアを開けて暫く固まってしまった。

「昨日賭けただろうが!てめぇの分塩まみれにすんぞ座ってろ!」

言いたい事全部顔に出てたんだろうな。くわっと怒られたので大人しく座って待つ事にして、いそいそと椅子に腰掛けた。
手際よく調理をする爆豪を眺めて、っはー、才能マンすげぇな、何でも出来んだな、って感心。イケメンで強くて勉強も出来て料理も出来るってなんなんだよこいつ。欠点ねぇのかくそむかつくじゃん。
って思った所で、性格に難アリだな、と思い至って謎の安心感を覚えた。人間どっか欠点無いとな、うん。

「てめぇコラ碌な事考えてねぇだろころすぞ」
「え?いやぁ何のことかな」

一人納得してたらめちゃくちゃ睨まれたので笑顔で誤魔化してみる。多分誤魔化されてくれたんだろう、舌打ちしながら爆豪が持ってきたのはまさかのフレンチトースト。え、美味しそう。
昨日ちょっとだけ残ってたポテサラと、ソーセージも焼いてくれたらしい。オシャレかよ。

「つか、フレンチトースト塩まみれにされたら最悪過ぎんだろ。やばくね」
「あ?知るかよ、アホみたいな顔して突っ立ってっからだろ」

軽口を叩き合いながら、自分じゃない誰かが作った料理を食べる。普通の家庭なら当たり前の事がこうも嬉しいとは、俺案外寂しいとか思ってたのかもしれない。
いただきます、と小さく呟いて一口。えー、美味いし……。
程よい甘さが口の中に広がってにへっと顔が緩んでしまう。別に甘党ではないけど、たまに食べる甘味は良いもんだ。

「あー久々にフレンチトーストとか食ったわ、あめぇー」
「は?うめぇの間違いだろ」
「あめぇあめぇ」
「喧嘩売ってんのかてめぇ……!」

カッと目を吊り上げて掌を爆発させる爆豪が面白くて、笑いながらうめぇって言えば、舌打ちしつつも大人しくなった。その爆発で炙りとか出来そうだな。

ブー、ブー、ブ、ブブ、ブーブブ……

不規則なバイブ音が聞こえて驚くのと同時にちょっと笑ってしまった。ビート刻んでる……。
ビート発生源は爆豪の携帯だったらしく、飲んでたコーヒーをテーブルに置いて確認してる。指の動きを見るにスクロールしてるんだろうけど、動く度に顔が怖くなっていくのはなんだ、新手のホラーか。

「……どしたん爆豪」
「あ゛?」
「顔こえーよ」
「チッ……ババアだ。クソ連投しやがってうっせぇんだよ」

テーブルに叩きつける様に携帯を置いた爆豪は食事を再開した。
爆豪の母親、か。どんな人なんだろう、やっぱ似てんのかな。
もぐもぐ食べながら考えてみても、この爆豪に似てる女性とかちょっと想像出来なくて渋い顔になった。ところで。

「なんでそんな連投来てんだよ、なんかあったのか?」
「何もねぇよ、てめぇが気にすんな」
「やー、帰って来いとかじゃねぇの?俺に気使ってんなら別に……」
「っせぇな気にすんなっつってんだろが!それとも何だ、もう帰れってか?」

親が心配してるとかならあんまゆっくりしてられないよなーとか心配して言ってんのに、なんだその言い方。

「別にんな事言ってないだろ。泊まってけばって言ったの俺だけど、親心配してんならわりぃじゃん」

腹立ったけど、引き止めたのは俺だし此処はぐっと堪える。楽しかったけど、誰かに心配かけんのはやっぱ駄目だ。
ぶすっとしながら言ったから、きっと怒ってんのはバレてると思う。けど爆豪が悪いから気にしねぇ。

「クソが……!飯食ったら帰るわ」
「……そうかよ」

なんか知らねぇけどキレて、そっから拗ねた。いや、ちょっと意味が分からんのだが。
謎が深まりすぎて不機嫌そうな爆豪をじーっとガン見してみるけど、やっぱ意味分かんねぇ。何でだ、言えよくそ。

「ハァ……視線がうるっせんだよ」
「だってお前…」
「るせぇ、二度は言わねぇぞ。クソババアは帰ってくる時間聞いてきただけだしクソ程も心配してねぇ、てめぇがんな顔する必要なんかねぇんだよ分かったか分かれしね」

早口でまくし立てる爆豪にぽかんとしてしまった。は、いや、え?
物凄く都合良く解釈したらあれか?絵藤が心配しなくてもいいよ、大丈夫だから、はーと、くらいのあれか?わっかりにくいんだよ毎回毎回こいつはよぉ!

「しねとか言うなよ……」
「あ゛!?そこかよしね!!」

爆豪なりの優しさだと思って受け取ってやるけど、頑張って翻訳してるこっちの身にもなってくれ。






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