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「ほんっとにさぁ、もうちょっと素直に言葉にして伝えて欲しいわ……」
「は?伝えてんだろが」
「まじで言ってんならお前だいぶやべぇって」
「あ゛!?」

そろそろ帰るらしい爆豪を見送るべく、玄関で靴を履いてる爆豪を見ながら言えば、予想外の返事が返って来た。どういう事だよ。

「言葉のチョイスが下手くそなんだよなー、例えばさ、誰かの事すきだーって思っても絶対言わねぇだろ爆豪。そういうのはちゃんとストレートに言葉にしないと伝わらねんだって」
「…………」
「まぁがんばれよ」

にへっと笑って肩を叩いたら物凄い形相でガン見された。なんか言いたい事あるなら言えって今言ってたところだろうに、なんなんだ。
首を傾げてみたけど、ただ舌打ちされるだけで終わって余計によく分からない。もはや恒例になってる爆豪に対する謎がまた一つ深まった。

「……機会があればな」
「え?」

小さい声で何かを呟いたみたいだけど、小さすぎて聞き取れなかった。聞き返してみたものの、うるせぇの一言だけで教えてはくれず。

「じゃあな」
「おぅ……また学校でな」

ひらひらと手を振った先、爆豪がちょっと笑った様な気がしたけど、すぐに閉まったドアに阻まれて確認は出来なかった。






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夏を前にして少し暑いくらいのこの日に、俺は手に持った1枚の用紙を眺めながら真剣に悩んでいた。

「ん゛〜〜〜〜」
「海人はそれ、悩まないと思ってたんだけどな」

休み時間である今、前の席に座って俺の方を向いている佐野に、意外そうな顔をされている。
職場体験の希望用紙。このヒーロー社会、ヒーロー事務所も沢山あるけど、それに比例するみたいにデザイン事務所も沢山ある。デザイナーを目指す俺達も、その中から選んで職場体験に行かなければならないらしい。

「親んとこ行ってもしゃあねぇじゃん……どうせ行くなら別のとこ見に行って勉強してぇ」
「まぁ、それは一理あるかもな」

先生にも薦められたけど、正直親がやってるとこなんて、言えばいくらでも見学可能なんだよな。嫌がられるどころか、むしろ大歓迎されそうで逆に行きたくねぇ。まじで。

「最終的に働くのは親んとこだし、目指す事務所とか無いの問題だな……。はぁー、俺ちょっと先生に相談してくるわ」

完全に煮詰まったから、ガシガシと頭を掻いて席を立つ。苦笑いしながら見送ってくれた佐野は、もう体験先を決めてるらしかった。良いな、迷いが無いってのは。

教室を出て職員室へ向かう途中、そう言えばヒーロー科にも職場体験とかあるんだろうか、って考える。デザイン事務所よりも、多分ヒーロー事務所のが数は多いよな。もしあるとしたら、俺たち以上に決めるの大変そうだ。
なんて思いつつふらふらっと廊下を曲がろうとした時、余所見をしていた俺は前から来た人にぶつかってしまった。

「わっ」
「っと!大丈夫か!?」

衝撃で後ろに倒れそうになった身体をぐいっと引き戻されて、ぶつかった人に助けられてしまった。

「す、すいません余所見してて……!」
「いや、俺は大丈夫なんで!……って絵藤じゃん!」

反射的に頭を下げて謝ったら、頭上から聞きなれた声が俺の名前を呼んだ。
声に釣られる様に勢い良く顔を上げて前を見れば、二カッと笑う切島がそこに居て。

「なんだ切島かよ!」
「なんだとはなんだ!まぁでも俺で良かったな、怪我無いか?」
「あっはっは、うん、わりぃ助かったわー」

にへっと笑ってお礼をすれば、満足そうな切島に肩をべしべし叩かれた。ほんと良い奴だよなぁ。
職員室に向かってる事を伝えると、じゃあ途中まで俺も行くって言い出して、結局そのままの流れで切島と一緒に行く事になった。

「あー、サポート科の方でも職場体験あるんだな!こっちもあるけど、こないだの体育祭で指名来たヤツらはそん中から選ぶんだぜ」
「へぇ、やっぱヒーロー科でもあんのか、つーか指名制?すげぇな」
「今の段階では興味程度らしいけどな。俺もちょっと来てたけど、やっぱ轟と爆豪が圧倒的だったぜ」

悔しいぜ!って言いながら拳を握る切島だけど、どこか楽しそうな表情をしてる。きっとライバルに挑む時の感じなんだろうなぁなんて、並んで廊下を歩きながら、ちょっと羨ましく思ってみたり。






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