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始業のチャイムが鳴り響いたから、慌てて立ち上がってそのまま教室まで一目散に走った。
背中から爆豪の声が追いかけて来た気がしたけど、一連の流れが恥ずかし過ぎて振り返る事も立ち止まる事も出来なかった。
走ってきた勢いそのままに、スパァン!と全力で教室のドアを開けたらクラスメイトに一斉に見られてしまって、あー気まずさすげぇ。

「どうした絵藤……」
「や、ごめん……何でもない……」

近くに居た奴に心配されたから、適当に誤魔化す。いや、ほんとごめん。

「ほらー何してんだお前ら、授業始まるから席つけよ」
「あっすいません」

後ろから来た先生にも注意されて、急いで自分の席に向かう途中で佐野と目が合ったけど、ふいっと逸らされてしまった。珍し、機嫌悪いのかね。
席についた途端携帯が震えたから、先生にバレない様にこっそり覗いたら爆豪からのLINEで。

「(あほ)」

顔文字も無いいつもの愛想の無いLINEだけど、絶対笑いながら打ってるだろうなって想像出来てむかついた。なので、ぶっさいくな猫のスタンプを連打したらころすぞって返事が来た。やべぇこれ多分マジのヤツだ。





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なんだかんだで明日から職場体験、だ。そういえば、爆豪に職場体験の事聞くの忘れてたなーなんて、自宅で絵を描きながらふと思い出した。
何処の事務所行くんだろ、近いとこかなぁー。ヒーローの職場体験ってどんな事すんだ?やっぱ敵を相手にしたりするんだろうか……。怪我とかしなきゃ良いけど……。

「……ぅわ」

ぼーっとしながら考えてたら、無意識に爆豪の絵を描いてた。
すぐに消したい衝動に駆られたけど、描いた絵は消さないって決めてるから、めちゃくちゃ悩んだけど置いておく事にした。
怪我しなきゃ良いのになんて思ってたのに、描いたのはちょっとぼろっとしたあれで、いつぞやに見た実習中の苦戦してる爆豪。便利な個性だけど、あれやこれや勝手に記憶してるからちょっと問題だよな……。
泥臭く戦ってるのも男らしくて良いと思う。優位に立ってても、苦戦してても、良いと思う。色々な場面を思い出しては視界がキラキラしだす。
いや、普通にヒーローとしてはかっけぇんじゃねぇの?って思うけど、でも見た目はすげぇ怖いよな。プロになっても純粋な人気とか出なさそうあいつ。
敵っぽいとか言われそうだよなーなんて笑ってたら、玄関の呼び出し音が鳴った。なんか宅配とか頼んでたっけな?

「はーい」
「開けろ」
「は!?爆豪!?」

モニターに映ってるのはさっきまで頭の中を占めてた爆豪で、えっ何しに来たん!?

「服、返すわ」

ガサ、と手に持ってる紙袋を上げて見せてくれて納得。そういやこないだ来た時貸してた!
おざなりに返事をしながら入口のオートロックを解除して、とりあえず、爆豪が来るまでに出しっぱなしの服とかを片っ端から自分の部屋に持っていこう。家上がるか分かんねぇけど。
にしてもさっきまで考えてたのがちょっと恥ずかしい。そんなんバレる訳ないんだけど、なんつうタイミングで来るんだよあいつ!

バタバタと片付けてたらまた違う呼び出し音がしたから、小走りで向かってドアを開ける。

「おっす、ありがと。別に学校で渡してくれても良かったのに」
「職場体験あんだろ、したら暫く返せねぇしよ」
「ん、それもそうだな、……上がってく?」

お礼を言ってから紙袋を受け取って、室内を指差してみる。何も無いけど、折角来てくれたんだからお茶くらい出さないと悪いし。

「いや、今日は帰るわ」
「あーそう?まぁ明日から忙しいもんな、頑張れよヒーロー」
「うっせぇわ、お前も体験あんじゃねぇのか」
「あるね、ってもそこで今後も働く訳じゃねぇし、適当に技術盗んで帰ってくるわ」

だから自分のとことは毛色の違う事務所にした。
やれる事はやってくるつもりだし、って気持ちで不敵に笑えば、爆豪もニヤリと笑った。

「それぁいいな、俺もそうするわ」
「おー、お互い頑張ろうぜ」

紙袋を持ってない方の手で拳を作って、爆豪に向ける。察してくれたのか、爆豪も拳をこつんとぶつけてくれて嬉しくなる。

「怪我すんなよ」
「あー、またおめぇに泣かれたら困るからなぁ」
「はぁ!?泣かねぇし!っつか俺がいつ泣いたんだよ!?」

ニヤニヤ笑いながら、じゃあなって小さく手を振って去っていく爆豪の背中が、またちょっとキラキラして見えたのは何でだ。
つうかマジで俺泣いてねぇし、言い逃げとかズルくねぇかあの野郎……。

「あ!事務所どこか聞くの忘れた!」

部屋に戻って暫くしてから、その事を思い出してた。まぁいいか……。






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