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「絵藤くん、じゃあこれコピー取って来てくれないかな」
「あ、分かりましたー」

職場体験先のデザイナーさんに渡された紙を手に、部屋の隅にあるコピー機に向かう。広い事務所じゃないから、歩いて数歩だ。
ガシャンガシャンと紙を吸い込んで吐き出すコピー機をぼーっと眺めながら、体験ってのも悪くなかったな、なんて思う。

「ごめんね、最終日なのにコピーばっかり頼んじゃって」
「いえ、職場体験ですから、細かい仕事を体験させて貰えてありがたいですよ」
「あはは、そう言って貰えたら助かるよ。デザインの方も随分磨きがかかってきたようだし、有意義な時間は過ごせたかな?」
「かなり。俺には無い引き出し多かったんで、すげー新鮮でした」

出来立てほやほやで熱い紙束を渡しながら笑顔で返すと、そりゃあ良かった、とにっこり笑ってくれた。
一週間の職場体験も今日で最終日。
さっき言った通り、この一週間はまじで有意義な時間だった。俺は割とシンプルなデザインを好む傾向にあるから、カラフルで装飾の凝ったデザインを得意としてるこの事務所を選んだんだけど、したらまー、目から鱗のデザイン案の宝庫だった。

「それじゃあこれ、学校の先生に渡す報告書が入ってるから、明日登校したら渡してね」
「ありがとうございます。……あの、一週間お世話になりました」
「いいえ、こっちこそ」

終始にこにこと優しく接してくれたこの人には、今後もお世話になる機会があるかもしれないな、と思った。


お客さんとの打ち合わせに向かうらしいデザイナーさんを見送って、丁度昼時だったから買って来ておいたおにぎりを取り出す。
もぐもぐと食べながらぼけっと携帯を眺めていたら、LINEの通知が届いた。

「(来る場所間違えた)」

「ぶは、何でだよ……!」

思わず吹き出してしまった爆豪からのLINE。俺も適当に選んで来たけど、こいつは俺以上に適当に選んでそうだもんな。
っていうか最終日にそれ送ってくるってどうなんだよ、めっちゃおせぇ!






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翌朝、欠伸を堪えながらゆっくりと通学路を歩いていたら、少し先に見知った背中を見つけた。
けど、あれ……知ってる背中なのに髪型が……ちげぇ……。
無性に気になって、どうにも好奇心を抑えられず小走りになる。そんなに遠く離れてなかったからすぐに追いついて、むしろちょっと追い抜いてから振り返った瞬間、俺は思いっきり吹き出した。

「ぶっほぁ!!!なん……爆豪お前なんなんどうしたっはははは!!」
「んだてめぇコラ!!!なんか文句あんのか朝っぱらからるっせぇなぶっ飛ばすぞ!!!!」

そこに居たのは間違いなく爆豪だった。
爆豪だったんだけど、ピシッと綺麗に分けられた前髪がびっくりするくらい似合ってない!最高だなおい!笑いすぎて涙出てきた。

「ひぃーー!ハハむり!あははウケるまじやっべぇ!」
「うっせぇっつってんだろが!クセついちまって戻んねぇんだよ!!」

ボンボン掌を爆発させる所はいつも通りなのに、ぼっちゃんヘアーなのがめちゃくちゃミスマッチで、腹を抱えて笑った。
ブチ切れる爆豪を放ったらかしにしながら、笑いが収まるまで大分時間がかかってしまった。こりゃあ来る場所間違えたって言うわな。

「あはは、ごめんって爆豪」

笑いが収まってから謝ったものの、舌打ちだけを返されたから、これはかなりご立腹っぽい。やでも、これを笑うなって方が無理があると思うんだよな。
並んで歩きながら、なんか他に話題が無いか考える。こういう時は全然違う話をするべき……。

「あ、そうだ」
「ア?」
「駅前にさー新しいラーメン屋出来てたんだよ、俺あれめっちゃ食いてぇんだけど、爆豪今日ひま?行かねぇ?」

横から顔を覗き込んでにへっと笑う。こういうお誘い乗ってくれるイメージはねぇんだけど、とりあえず機嫌がちょっとでも直ってくれれば良いなと思う。
片眉を少しだけ上げて俺を見下ろす爆豪の考えは読めない。ダメかな……、話題を変えたいと思ってたのは本当だけど、あのラーメン屋行きたいのはマジなんだ。

「奢りなら行くわ」
「……ッ!?えっ!?」

ふいっと目を逸らして前を向きながら言った言葉にぎょっとした。
まじ!?行くの!?う、嬉しいんだけど……って思いかけたけど奢りとかお前……!!

「あんだよ」
「う、……奢らせてイタダキマス……」

今月……ラーメン一杯くらいの余力なら……、そう思って渋々頷いた。爆豪と一緒にどっか行けるっつーのもレアだし、食いに行きてぇし……。

「はぁ?どんだけ食いてんだおめぇアホか、自分の分くらい出すわ」
「あぁ!?騙したな!?」
「騙される方が悪ぃわ」

ぎゃあぎゃあ言い合いながら学校に入ったら、通りかかった先生に注意されてしまった。
今日の放課後はラーメン、楽しみが出来たから一日乗り切れそうだ。





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