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爆豪とは途中でお別れして、自分の教室へ向かう。
あいつ絶対あの頭の事切島とかに思いっきり笑われてキレんだろうなー、って考えてニヤけそうになる。こういう時、同じクラスじゃないのが寂しくなってしまうな。

「うお」

必要以上にデカイ教室の扉をガラッと開けた瞬間、目の前に佐野が立っててめちゃくちゃびっくりした。あの、朝から心臓に悪いんですけど?

「びびるわ佐野、おはよー」
「……おはよ」

にこっと笑って挨拶を返して、そのまま俺の横をすり抜けて教室を出て行った。けど、あいつ……どうしたんだ……?
軽く眉間に皺を寄せて、去っていく背中を視線だけで追う。

「おー絵藤どうした?」
「や……、なぁあいつなんかあったん?」
「佐野?……さぁ、別にいつも通りなんじゃねぇの?」
「あー……、そう?」

近くに居たクライスメイトに聞いても、特に何も無いらしい。俺だけが気付くくらい些細な違和感、なのか。
とりあえず先生が来る前に席について教科書を出しながら考えてみるけど、俺も暫く会ってなかったしさっぱり見当がつかない。
それに、誰かにこの違和感を伝えようにも何て伝えたら良いか分からない。笑顔が気持ち悪い、とか言ったらあいつ怒りそうだしな……。

ポチポチ携帯を弄りながら佐野が帰ってくるのを待ってたけど、始業のチャイムが鳴るのと同時に帰ってきたお陰で話しかけるタイミングは掴めなかった。





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各授業の間の休み時間も、昼休みも、佐野がまったく捕まらない。
話しかけても無視されるとかではなく、トイレ行くからーとか、先生に呼ばれてるからーとか、何かしら理由をつけてどこかへ行ってしまう。
無理に引き止めるのもどうなんだろうと思って、それはしてないんだけど、さ。

「いや、これ俺避けられてるよな……?」
「知らねぇよ……ってか何で俺に言うワケ?」

目の前で変な顔をしながらチャーハンを食べる上鳴が冷たい事を言う。もっと親身になってくれても良いんじゃねぇの?
心が折れかけているから一人ぼっちの昼休みは寂しい。とか思って上鳴を誘って食堂に来ている今、折角だからと佐野の事を相談してみたらこのリアクションだ。

「佐野の事知ってんのお前くらいじゃんか、なー俺なんかしたんかな?」
「俺佐野の存在は知ってるけどそんな仲良しとかじゃなかったからな!?……っつーか、もし絵藤がなんかしてたとしても、アイツなら直接言うか、許してフツーに接してくんじゃないの?」

そんなあいつの事知らないから予想だけど!って付け加えて、セットのスープを飲み干した上鳴に、ん゛ーーーと唸る俺。
だよ、なぁ……。俺もそう思うんだよ正直。だから直接聞きたいんだけどめちゃくちゃ避けられてて聞けないんだよ、なんなんだよまじでよ。

「たすけろよヒーロー……」
「無茶言うなよ!?」

うな垂れながらそう言えばくわっと怒られてしまったけど、怖さが爆豪の比じゃないからワンコみたいだと思ってしまった。怒られ慣れてきたんかね。

「まーともかく、あいつに話聞くしか道はないかぁ」
「……だから最初っからそう言ってるじゃん……」

げんなりした様子の上鳴には悪いけど、ちょっとスッキリした。ありがとう上鳴、助かったぜヒーロー。
とか言ったらまた怒りそうだから言うのは辞めとくけど。

そっから午後の休み時間も佐野を捕まえようと躍起になってたものの、結局放課後になるまでずっと捕まらなくて、流石にイライラしてきた。
くっそ……、この後は爆豪とラーメンだから明日まで持ち越しだな……。と思ってた所で、その爆豪からLINEが来た。

「(先生に呼ばれたから先向かっとけ)」

あれ、まじか。別に一緒に行かなきゃいけない訳じゃないし、と思いながら店の名前と場所を伝える返事を送った。
断られてもないしな。すぐ終わるだろうか、んーまぁ店の前で待っとけば良いかなんて思いつつリュックを背負う。

「……海人」
「あ?」

声のした方へ顔を向けたら佐野がそこに立っていて、なんか、今日ようやくちゃんと顔を合わせた気がする。

「ちょっと良い?」

にこ、と笑ったその顔は、やっぱりどっかいつもと違って見えた。佐野の感情が、読めない。






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