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ヒーロー科の模擬戦は、なんて言っていいか分からないぐらいテンション上がる内容だった。
まずそれぞれ持ってる個性は様々で、動き方も違うから俺の個性が追い付かない。描きたい瞬間目白押しだ。
今なんて女子同士でやってるからめっちゃしなやかな動き方してるし、やべぇわほんと勉強になる。
片方の子はなんか蛙っぽい。すごいまさか蛙女子を描ける日が来ようとは。

俺も個性を発動させたり切ったりしながら、夢中でスケブにペンを走らせる。
時間が勿体無いから、ある程度カタチを整えたら次に取り掛かる様にしてるけど、それでも全然追い付かない。あーくそ時間足んねえ!

飛び上がった蛙ちゃんを描き終えた所で、初めて横に人が座ってた事に気付いてぎょっとした。
うぇ、び、びびった……。

「それ、てめぇの個性かなんかか」
「え?」

目、と言って俺の目元を指さしてきたこいつ、あ、さっき食堂で激おこしてたイケメンくんだわ。

「あぁ、そうだよ。地味なもんだろ?」

ふへ、と笑ったら眉間に皺を寄せられた。何故だ。

「…まぁ地味だな」

険しい顔のままじっと俺の目を観察されてる。座り方といいこれはあれか?メンチ切られてんのか?

「おーい爆豪次俺らだぞー!」
「チッ」

やーどうしようかなーとか思ってたら向こうから声がした。たぶん声的に赤髪くんか。

ていうかこいつがあの爆豪か、はーなるほどねぇ。

なんて思ってたら爆豪はサッサと向こうに歩いてった。何しに来たんだ?
首を捻りつつも、まぁそれより模擬戦も最後っぽいし、俺も気合い入れて描かねばと思い直す。
ガチンコで熱そうあの二人。どんなだろう、楽しみだ。
離れてるから何言ってるかは分からないけど、口火を切ったのは爆豪。掌を爆発させて……爆発!?

まじかなんだあれすっげかっけぇ!!!!

思わず目を見開いた。なんつー派手さ!
赤髪くんの上を軽やかに飛んで、側面から爆破をぶちかます爆豪をしっかりと記憶する。これは画力を問われる、描きがいあるぜ。
テンションが上がると目の前がキラキラする。イイ顔して戦うな爆豪。
夢中で描き殴りながら、あーこれはあとで彩色もちゃんとしてえなーなんて考える。

「危ねぇ絵藤!!!」

考えてたら、遠くから叫び声がした。瞬間、爆音。

「…ッ!!」

途端に巻き上がった砂煙に、目を瞑って腕で顔を庇う。いや、え、なにごと。
若干砂も目に入って痛いし、煙くて咳き込んでしまう。

「おい、怪我は」
「っげほ、げほ…え?」

涙目になりながら前を見れば、砂煙の中に立つ金色の髪の広い背中。

「怪我はねえんかって聞いてんだよクソが!」
「お、おお、大丈夫…」
「…ならいい」

俺の返事を聞くや、てめぇコラクソ髪どこ狙ってやがる!!って叫びながら飛んでった爆豪。
えーー、もしかしてもしかしなくても助けてくれたのか……これ……。
何となく今の状況を把握していると、こっちに走ってくる上鳴の姿が見えた。

「おい絵藤、大丈夫か!?」
「上鳴……やー、へいき」

爆豪くん助けてくれたから、とぽつりと言えば上鳴がびっくりした顔をした。んんそんな意外?

「まじかよ…あの爆豪が…」

意外らしい。まぁすっげ口悪かったけどな助けてくれたのに。
いつの間にか模擬戦は爆豪が勝利して終わったらしく、赤髪くんもこっちに走ってきた。

「ごめん絵藤!俺の不注意ださっきの、怪我ねえか?」
「全然大丈夫、つか俺も前見てなかったからわりぃよ。爆豪助けてくれたしおっけー」

俺の言葉に赤髪くんも驚いていた。どんだけだよ爆豪。

「だから、えーっと…」
「あ、俺切島。ほんとわりぃな、後でジュース奢るわ!」
「え!まじ、切島やっぱ良い奴じゃん。したらさー爆豪も連れてきてくんね?お礼したいから」

赤髪くん、もとい切島はきょとんとした後、やーあいつ来るかなー頑張っては見るけどさーって渋い顔になって頭をかく。

そんな難しいの、あいつ……。






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