5
「なんつー顔してんの海人……」
翌朝、教室で俺の顔を見るなり佐野がぽつりと呟いた。
椅子の背にもたれてだらけながらゆっくりと佐野を見れば、呆れた、とかなんとかそんな感じの表情をしてる。
「おはよう佐野くん良い朝だね」
「きもいわ」
へらっと笑って言えば暴言を吐かれた。うん、俺もそう思う。
昨日はあれから気合を入れまくってしまい、気付いた時にはもう深夜になっていた。なので今日は完全に寝不足状態だ。
でもまぁとりあえず納得のいく絵は描けたし、結果オーライ…かなぁ。
「またやりすぎたんだろ」
「んー、まぁ、あんだけ煽られたらやる気出るわなー」
机の上で猫みたいに伸びながら言えば、なんだそりゃ、ってまた呆れた声で言われた。
∞----------------------∞
昼休み。
爆豪をぎゃふんと言わせる時だ!……やー、死語なのは分かってんよ。
スケブを鞄に入れて、昼飯何食おうかなーって考える。うーん、なんか甘い系が食べたい気分だな。
「海人、飯食わねぇの?」
「やー食うよ。でも今日用事あるから、悪いけど食べててくんね」
朝のうちに飯を買ってたのか、コンビニ袋を手に持った佐野が声をかけてきた。大体一緒に食べてるからちょっと申し訳ない気持ちが湧く。
「あ、そうなん。すぐ済むなら待ってるけど」
「どんだけかかるか分かんないし、悪いからいいよ」
佐野の優しさプライスレス。
拝むように謝ってから教室を出て、とりあえず購買に向かう。パーン。甘いパーン。クリームパンかね。
「おいてめぇどこ行く気だ」
甘いパンに思いを馳せていたら思考を邪魔する声。出たな。
「昼飯買いに行くんだわー爆豪は飯持ってんの?」
廊下の向こうから歩いてきたらしい爆豪。俺の質問にガサ、と手に持ったビニール袋を掲げた。もう持ってるって事か。
別に俺逃げも隠れもしないんだけど、迎えに来てくれたんだろうか。もしそうならこいつ実は優しいんじゃねぇの……。
「校舎裏で待ってっから逃げんなよ」
にやっと笑った爆豪は、そのまま踵を返して校舎の外に向かっていった。だから逃げないって。
クリームパンは売り切れてた。くっそおお一番食いたかったんだけど…!
しょうがないからメロンパンと焼きそばパンを買ったけど、組み合わせまずった気がしないでもない。甘辛ですわ。
少しの悲しさを紛らわすように、パンの入った袋をブンブン振り回しながら校舎裏を覗くと、ベンチに座ってる爆豪を発見。
口いっぱいにおにぎり頬張ってるの、なんかちょっとハムスターみたいだ。言ったら怒りそうだから言わないけど。
「おまたー」
「うるせぇ待ってねぇ」
ついさっき待ってるって言ってたのどこの誰よ?
眉間に皺寄せて睨んでくるけどハムスターになってるから怖くない。笑うのを堪えながら、隣に腰を下ろしてガサガサとパンを取り出す。先に焼きそばパンからにしよう。
何を言うでもなく、二人並んでもぐもぐ食べる。爆豪も別に何も言わない。静かな空間だけど、まぁ案外苦痛じゃなかったり。
「持ってきたかよあれ」
食い終わったゴミを袋に詰めながら爆豪が言う。不良っぽいのにその辺に捨てたりはしねぇんだな。
「んおー持っへひたお」
「口からパン離して喋れやアホか」
焼きそばパンを口にくわえたまま返事をしたら怒られた。通じたならいいじゃんと思うんだけど。
鞄からスケブを取り出して差し出すと、ぺいっと取られた。大事なスケブなんだからもっと優しく扱ってくんねぇかなー。
ベンチの上で膝を抱えて、くわえたままのパンをそのままもぐもぐする。隣で胡坐をかいてる爆豪が真剣な顔でスケブを見始めたから、暇つぶしにその顔を眺めておく。
相変わらず眉間に皺寄ったまんまだ。勿体ない。
前へ|次へ