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「なんつー顔してんの海人……」

翌朝、教室で俺の顔を見るなり佐野がぽつりと呟いた。
椅子の背にもたれてだらけながらゆっくりと佐野を見れば、呆れた、とかなんとかそんな感じの表情をしてる。

「おはよう佐野くん良い朝だね」
「きもいわ」

へらっと笑って言えば暴言を吐かれた。うん、俺もそう思う。

昨日はあれから気合を入れまくってしまい、気付いた時にはもう深夜になっていた。なので今日は完全に寝不足状態だ。
でもまぁとりあえず納得のいく絵は描けたし、結果オーライ…かなぁ。

「またやりすぎたんだろ」
「んー、まぁ、あんだけ煽られたらやる気出るわなー」

机の上で猫みたいに伸びながら言えば、なんだそりゃ、ってまた呆れた声で言われた。




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昼休み。
爆豪をぎゃふんと言わせる時だ!……やー、死語なのは分かってんよ。
スケブを鞄に入れて、昼飯何食おうかなーって考える。うーん、なんか甘い系が食べたい気分だな。

「海人、飯食わねぇの?」
「やー食うよ。でも今日用事あるから、悪いけど食べててくんね」

朝のうちに飯を買ってたのか、コンビニ袋を手に持った佐野が声をかけてきた。大体一緒に食べてるからちょっと申し訳ない気持ちが湧く。

「あ、そうなん。すぐ済むなら待ってるけど」
「どんだけかかるか分かんないし、悪いからいいよ」

佐野の優しさプライスレス。
拝むように謝ってから教室を出て、とりあえず購買に向かう。パーン。甘いパーン。クリームパンかね。

「おいてめぇどこ行く気だ」

甘いパンに思いを馳せていたら思考を邪魔する声。出たな。

「昼飯買いに行くんだわー爆豪は飯持ってんの?」

廊下の向こうから歩いてきたらしい爆豪。俺の質問にガサ、と手に持ったビニール袋を掲げた。もう持ってるって事か。
別に俺逃げも隠れもしないんだけど、迎えに来てくれたんだろうか。もしそうならこいつ実は優しいんじゃねぇの……。

「校舎裏で待ってっから逃げんなよ」

にやっと笑った爆豪は、そのまま踵を返して校舎の外に向かっていった。だから逃げないって。



クリームパンは売り切れてた。くっそおお一番食いたかったんだけど…!
しょうがないからメロンパンと焼きそばパンを買ったけど、組み合わせまずった気がしないでもない。甘辛ですわ。
少しの悲しさを紛らわすように、パンの入った袋をブンブン振り回しながら校舎裏を覗くと、ベンチに座ってる爆豪を発見。
口いっぱいにおにぎり頬張ってるの、なんかちょっとハムスターみたいだ。言ったら怒りそうだから言わないけど。

「おまたー」
「うるせぇ待ってねぇ」

ついさっき待ってるって言ってたのどこの誰よ?
眉間に皺寄せて睨んでくるけどハムスターになってるから怖くない。笑うのを堪えながら、隣に腰を下ろしてガサガサとパンを取り出す。先に焼きそばパンからにしよう。

何を言うでもなく、二人並んでもぐもぐ食べる。爆豪も別に何も言わない。静かな空間だけど、まぁ案外苦痛じゃなかったり。

「持ってきたかよあれ」

食い終わったゴミを袋に詰めながら爆豪が言う。不良っぽいのにその辺に捨てたりはしねぇんだな。

「んおー持っへひたお」
「口からパン離して喋れやアホか」

焼きそばパンを口にくわえたまま返事をしたら怒られた。通じたならいいじゃんと思うんだけど。
鞄からスケブを取り出して差し出すと、ぺいっと取られた。大事なスケブなんだからもっと優しく扱ってくんねぇかなー。
ベンチの上で膝を抱えて、くわえたままのパンをそのままもぐもぐする。隣で胡坐をかいてる爆豪が真剣な顔でスケブを見始めたから、暇つぶしにその顔を眺めておく。
相変わらず眉間に皺寄ったまんまだ。勿体ない。





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