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さっとラフのまま進めてた奴は、とりあえず誰がどんな感じか分かる様にだけしておいた。流石に全部清書して彩色する時間は無かったし…何よりめんどくさい…。って言うと駄目なんだろうけども。
俺の全力を注いだのは、こん中で1枚だけ。

「ッ!」
「それ、俺の力作。カッコイイヒーローだろ?」

にやにや、ちょっとからかう様に言ってやる。バッとこっちを見た爆豪は、驚いてんだか怒ってんだか、照れてんだか、なんかよく分からない表情をしててしてやったりだ。

「てめぇこれ、」
「昨日助けてくれた時の俺の記憶。言ったろ、俺の個性」

焼きそばパンの最後の一口を食べ終えて、ふへっと笑う。あの瞬間、無意識に記憶してたそれは、俺にとっちゃあすげぇかっけぇヒーローだったから。
昨日の実習で助けてくれた時の、爆豪のあの背中。砂煙の中に立つヒーローが、俺には凄く輝いて見えた。

「くそが……」

ベチン!と勢いよくスケブを閉じて突っ返してきた。これあれかな、もしかして照れてんのか。

うへへ、これは俺の勝ちじゃん?

ご機嫌になってメロンパンを頬張る俺とは反対に、そっぽを向いてる爆豪。

「泣いて感動しろよー」
「あ?泣かねぇわ馬鹿にすんな」

昨日言った事を思い出して同じ事を言ったら、膝に頬杖をつきながら睨まれた。いやーもう今は全然怖くねぇわ。

「ふっへへ」

耐えきれずに笑えば舌打ちされたけど、頬張ったメロンパンはうめぇしなんか幸せだ。

「アホか……締まりねぇな」

呆れた様に言う爆豪が手を伸ばしてきて、なんだろって思う間になんか取られた。メロンパンのクッキー生地…が…。

「んなもん付けて余計アホだな」

頬っぺたに付いてたらしいのを爆豪にそのまま食べられた。ニヤっと笑いながら。いや、待てなんかすっげぇ恥ずいぞそれ!
ぶあっと顔に熱が上がってきて、まだ残ってるメロンパンを落としそうになった。んだこいつ!彼氏か!

「や、付いてたなら言えよ!」
「知るかよ」

あめぇわ、とか言いながら俺の言う事を聞かねぇ。爆豪おい。
気恥ずかしさを紛らわす様にメロンパンに噛り付く。爆豪も意味分からんけど、テンパってる俺も意味分からん。

「おいアホ」
「誰がアホだ!絵藤だっつの!」
「それ毎日描いてんのか?」

こいつ人の名前覚える気ゼロだよな。いい加減覚えろよ。っていうかさっきのはちょっと忘れよう。俺はノーマルだ。

「まぁ、一応……、最低でも1枚は描く様にしてる」

暇かよ、って言われてムッとしてしまうのは俺悪くないと思う。暇じゃねぇわ。忙しくても頑張って時間作ったりしてんだ。

「ならまたこれ見せに来いよ。俺が見てやっから」
「はぁ?お前先生かなんかかよ、何で見せんの」
「俺が見てやるっつってんだ良いから見せろ垂れ目野郎」

アホから進歩したのかその呼び方……。
別に見せるのは良いけど、その言い方は何とかならんのかよ。返事をしようとした瞬間予鈴が鳴った。

「あ゛ーーー、まじ1枚しか描けない日もあるからまた溜まったら連絡する。LINE教えて」



予想外に増えた連絡先の友達1名。
帰り際、俺が気に入ってるぶっさいくな猫のスタンプを送ったらしねって返ってきた。LINEでも口悪ぃなこいつ!



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あれから何度か、昼休みに爆豪と一緒に飯を食った。お馴染みの校舎裏。
スケブも見せてるけど、毎回別に感想とか言う訳でもないし、楽しいのだろうかって疑問が湧いてくる。
一回、廊下で盛大にスッ転んでた上鳴を描いてた時は写メを撮って上鳴に送ってた。後で出くわした俺が怒られた。

今日も今日とて校舎裏。
用事で遅くなった爆豪はまたハムスター状態で、先に昼飯を済ませてた俺は、そんな爆豪を見ながらスケブに描いている。
眉間に皺寄せて食うのがデフォらしく、もう見慣れてしまった光景だ。
ハムちゃんばくごーって紙の端に書いて、ヒゲとか生やしてみる。なんか楽しくなってきて、そのままネズミの耳も書き足してたらチョップされた。

「ってぇーバレた!」
「何描いてんだやめろ」

可愛いのになーって言ったら更に強めにチョップされた。脳細胞が死ぬ。

なんだかんだ、最近はこの昼休みが楽しみに思えてきてる事には気付かないフリをしておこうと思う。





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