夕凪の胸懐
落ち着いてる人、緊張してる人、ワクワクしてる人、周りを見渡すだけでもたくさんの人がいる。
満を辞して今日、全国中学バスケットボール大会が開幕された。

「黒子なんかあった?」
「え、どうしたんですか急に」

黒子は基本真顔で感情が表にでないのだけれど今は珍しく機嫌が良さそうだった。

「なんか嬉しそうだから」
「実は昔の友達に再開したんです」
「へえ、すごい」

そういえば今でもメールでやり取りしてる友達がいるとは言っていた気がする。
全中で再開するなんてなんだか夢のある話だ。そんなこと現実にあったりするんだな。

「決勝で当たるといいね」
「そうですね」

目尻をさげてはにかむ黒子につられてこっちまで嬉しくなる。決勝で当たるには帝光も勝ち進まないといけないが、白金監督のお墨付きのこのチームならきっと心配も必要ないのだろう。
青峰も黒子が何か言ったみたいで以前ほどサボることはなくなった。けど、バスケをしている時にふと見せるやるせない表情にはいつまでたっても慣れることはできなかった。


「眠たい……」
「呉羽は朝が苦手だな」

こんな朝早くから完璧な征十郎はさすがだと思う。この十数年間の付き合いで征十郎の寝癖見たことあるっけ。
というか早起きが得意な人というのは果たしているのか。……思いつくのは緑間とか、かな。目覚ましが鳴ったらすぐに起きそう。それこそ一秒単位で。

決勝トーナメント一回戦、対戦相手は上崎中。たしか青峰が気に入っていた井上という選手がいたような気がする、多分。さつきに聞いたら分かるか。

会場に着いてからは各自ウォームアップを始め出す。

「銀城っちー! 軽くテーピングしてもらっていいスか?」
「どこか痛むの?」
「ちょっとだけっスけど」

征十郎に言われて気がついたことだが、私のテーピングはうまいらしい。てっきり虹村先輩に褒められたのは私の贔屓が入ってるからだと思っていたけどそうではなかったみたいだ。
それが分かってからはこうしてテーピングを頼まれることが多くなった。選手の役に立てるのは嬉しいことだ。

「ん、これでいいと思う」
「助かったっス!」
「ただ無理はしすぎないように」
「分かってるっスよ」

「はーい」なんて元気に返事してるけど本当に分かってるんだろか。黄瀬はなんだか放っておけないタイプで、ついつい気にかけてしまう。
その後なにもなく練習が終わり、あと少しで上崎中との試合が開始される。試合前の青峰は楽しそうで、久々にあの笑顔を見れた。

ーーそう思ったのに、どうして現実はうまくいかないのだろう。帝光と上崎の試合結果は169ー81。圧倒的な点数差にもはや相手は戦意喪失といった状態だった。

「青峰君!! さっきテツ君と…なんで……」

……そうだ、相手の状態なんてどうでもいい。そんなことより青峰だ。

「外行ってくる。一人にしてくれ」
「青峰っち!」

観客席からみててもなにが起きてるかわかる。早く追いかけないと、追いかけて、それでーーそれでどうするの。あんな状態の青峰になにを言うの。
頑張れ、強いやつなんてどこにでもいるって。そんこと言えるわけない。もう、なにもかも最悪だ。

第二試合目で青峰は40点を決め、帝光は圧勝。翌日の準決勝では単独で51点を記録。帝光中学は決勝進出を決めた。
決勝進出することができはずなのに、チームの勝利を嬉しいとは思えなかった。こんなこと、初めてだ。
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