束の間の喜雨
ピーーーー

ハーフタイムに入る笛の音が鳴る。26ー31で今大会では初めて帝光が追い掛ける形となった。
相手の双子がファウルを取るのがうまく、黄瀬は3つ、青峰は前半だけでファウル4つ。エースの青峰を後半試合に出すのは難しくなってしまった。

「黄瀬君と青峰君大丈夫かな」
「どうだろう……難しいね」

さつきが情報を集めてくれているとは思うけど、今の青峰の状態ではまたファウルを取られて退場になるかもしれない。

「あれ? 監督と青峰君まだ残ってる」
「なにか話してるみたいだけど」

監督自らとは珍しい、対策でも立ててるんだろうか。征十郎は後半どうするつもりなんだろう。

「喉乾いたから飲み物買ってくる」
「はーい!」

ロビーは人が多そうだし少し離れた外の自販機に行こう。急げば後半が始まるまでに間に合うかもしれない。

ドンッ

「っ、すみません!」
「すまん! 大丈夫か?」

走っていて角から出てくる人に気付かなかった。思っていたよりも大きな衝撃でよろける。

「大丈夫です。気になさらないでください」
「良かった。その制服……キミ帝光?」
「ああ、はい」

落ち着いて見ると男の人はジャージを着ている。あれ、この男の人みたことがあるかもしれない。さつきが何か言っていた気がする確かーー

「木吉鉄平?」
「おー! 俺のこと知ってるのか!」
「え、あ、すみません! 歳上の方に…」

思い出した、照栄中学のエース木吉鉄平だ。無冠の五将とかなんとかの。

「いいよ。決勝頑張ってな!」
「ありがとうございます」

見た目通り優しい人だった。前に見たことがある花宮真も賢そうな人だったし無冠の五将はそういう人が多いのだろうか。


「青峰出てるの!?」
「そーなの! びっくりだよね」

飲み物を買いに行った後戻ると試合に青峰が出ていた。黒子は出るだろうと思っていたけど青峰が最初から出ているとは思わなかった。

「でもねもう逆転してるんだよ!」
「本当だ」

一対一が多い、試合を見てて感じた率直な感想だ。一対一なら皆んなが負けることはほぼないだろう。
前半とは違いシュートがどんどん決まっていき、あっという間に第3Qが終わった。

「あ! 次は青峰君がベンチで黄瀬君だよ!」
「この流れならファウルの心配もないよ」
「ふふっ」
「みっちゃん? どうしたの急に笑い出して」

第4Qが始まり、みっちゃんと話していると何故かみっちゃんが笑い出した。変なことは何も言ってないし、さっきの会話で笑うようなことがあっただろうか。

「呉羽ちゃんと黄瀬君仲良くなったなーって」
「そりゃ、最初よりはね」
「すっごい嫌そうだったのに変わるもんだねぇ」
「そんなに顔にでてた……?」

これは初耳だ、自分の中では割と気をつけて接していたけど周りからみれば丸分かりだったのか。なんだか黄瀬には申し訳ない事をしたな。


「試合終了ーー!」
「全中二連覇達成ーーー!」

「わあ! ねえ呉羽ちゃん優勝だよ!!」

全中二連覇。もしかしたら喜べないかもなんて思っていたけど、今までの頑張りが全部報われたんだ。これはやっぱり嬉しい。

「銀城っちー!!」

下から誰かの声が聞こえる。まあこの呼び方は一人しかしないからすぐ分かるんだけども。

「優勝おめでとう黄瀬。お疲れ様」
「なんか冷めてないっスか!?」
「そんなことないよ。すっごい嬉しい」

そもそも大喜びするようなキャラじゃないだろう私は。

「黄瀬ー、先に戻ってんぞ」
「青峰っち!」
「お前なにしてんだよ…… 呉羽か」
「青峰…」

どうしよう、何を言ったらいいんだろう。おめでとうもお疲れ様も、どれも違うような気がしてしまう。

「あー……優勝したぞ」
「そんだけ!?」
「え、あ、うん、おめ…でとう」
「おう、んじゃ戻るわ」
「置いてかないで青峰っちー!」

「……青峰!」
「なんだよ?」
「私青峰のバスケ、好きだよ」

難しいこと考えるのもウジウジするのも今は、いいや。帝光が優勝した、私はみんなが優勝して嬉しい、今はそれだけで十分だ。

「……おう」

言った後だけど何か恥ずかしくなってきた。慣れないことはするもんじゃないな。結局上手くいくことは上手くいくし、上手くいかないことは上手くいかない。まだまだ不安はあるけど監督が居てくれたらきっと大丈夫だ。
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