道を灼く
「話……ですか」
「そうだ。お前達せっかく来てもらったのに悪いが、少し席を外してもらえるか」
「分かりました」
「すまないな」

先輩達が出て行くのを見ながらも何が起きてるのかいまいち理解できず、ただじっとしていた。

「呉羽、すまないが先に戻っている」
「ああ、うん」

最後に残っていた征十郎が部屋から出て行った。ドアが閉まったのを確認してから監督が口を開いた。

「さて、何か悩みはないか」
「……えっ。悩み…ですか」

さっきから予想が全くつかないし監督に悩みを相談した記憶もない。相変わらず監督は何を考えているかわからない人だ。

「なんだっていいぞ。勿論自分以外でもな」
「自分以外、ですか」
「例えば……黄瀬とかはどうだ」
「黄瀬…!?」

自分以外と言われて浮かんで来たのは征十郎や青峰の事だったが、黄瀬は浮かんでこなかった。いよいよ監督が何を言いたいかわからなくなってきた。

「黄瀬……えっと…黄瀬も青峰に劣らないくらい才能に恵まれていると思います」
「そうだな」
「けど……青峰を見ていると、黄瀬もこのまま成長しなければいいのにって……思います」

黄瀬も青峰のようにならないという保証はない。楽しそうにバスケをする皆を見ているのが好きだったのに今は時々目を背けたくなる。

「マネージャーとしてこんな事思うのは駄目だと分かっているんですけど、今の青峰は……正直見ていられないので…」

監督が居てくれれば大丈夫だとそう思った矢先に監督が倒れるなんて思いもしなかった。こんなこと誰が想像できたんだろうーーーああでも、あの征十郎なら考えていそうかもしれない。

「……彼らの成長を止めることは誰にもできないだろう。だが銀城、逃げてはいけない。難しいかもしれないがちゃんと向き合ってあげてほしい」
「私に…それだけの力があるとは思えません」
「君は少し自分を過小評価しすぎる癖があるみたいだ。少なくとも、君は十分チームに貢献しているよ」

その言葉に少しだけ心が軽くなった気がした。監督のような人をカリスマ性があるとでも言うのだろう。


「病み上がりなのにありがとうございました」
「気にしなくていい」
「二年間お世話になりました。時々手紙送ります」
「楽しみにしてるよ」

監督にお礼を告げた後病室を出ると廊下のイスに虹村先輩が座っていた。

「よっ」
「話終わったので入っても大丈夫です」
「おう……あ、俺ももう帰るから玄関で待っとけ」
「え! わ、かりました」

さっと病室に消えていった虹村先輩にドアがしまるギリギリで返事をした。赤司から聞いているかもしれないが一応さつきにメールを打ちながら玄関に向かう。
今日はすごく疲れた……このまま部活を休みたい気分だ。そんなわけにはいかないが思うだけならタダだろう。

「はあ……」
「何ため息ついたんだ、幸せ逃げるぞ」
「わっ! …黒子みたいなことしないでください」
「わりぃわりぃ!」

驚いたとかそういうことよりも不用意に触られるのは私の気持ち的に不味いんです。一瞬肩に触れただけだけど、それでもーー

「……いやいや変態か私は」
「なんか言ったか?」
「なにもないです! あーえと…虹村先輩は高校どこにいくんですか?」

なんだかんたで聞いていない気がする。先生達はあと一年後というけど逆にあと一年もあるんだと思ってしまう。

「受かったら教えてやるよ」
「まだまだ先じゃないですか」
「なんだよ銀城、高校悩んでのか」
「そこまでは、多分征十郎と同じとこだと思いますし」

特別行きたいところがあるわけでもないし、将来の夢というのも決まっているわけではない。征十郎が行くならある程度は学力がありそうだし志望校でいちいち悩むのも面倒くさそうだ。

「お前それでいいのか……」
「駄目、ですか」

呆れた顔をしている虹村先輩にメンタルがやられる。

「駄目とは言わねえけど。周りばっかじゃなくてもーちょい自分のこと考えろよ銀城」
「まさか、自分のことで精一杯ですよ」

周りのことばかり考えているような良い子ではないし、自分のことを考えながら周りを気遣えるような容量の良い人間でもない。


そう思ったのに何故か学校に着いてからも虹村先輩の言葉が頭を離れなくて、どうにもスッキリしない気分だ。

「銀城っちー! 先校門いってるっスよー!」
「わかった」

人を待たせるのは好きではないので一軍体育館へ駆け足で向かう。

「緑間、まだ残るんだったら戸締りお願い」
「……」

立ったまま返事がない緑間を不審に思ったが急いでいたので早く鍵を渡そうと、近くまで行き声をかけた。

「緑間」
「っ! ……なんなのだよ」
「まだ残るのなら体育館の戸締りお願い」
「あ、ああ」

体育館を出るときに振り返っても、いつもより気の抜けた顔をしたまま手のひらを見つめている緑間が居た。
prev back next
ALICE+