春探し友探し
授業の終わりを知らせるチャイムがなり昼休憩に入る。これでやっと退屈な授業から解放される。

「……ない」
「呉羽ちゃんお弁当食べよう! 私もうお腹ぺこぺこー!……って食べないの?」
「それがお弁当忘れたみたいで」

同じクラスのさつきとご飯を食べようと思い席を立ったのだがお弁当を持って来てないことに気づき食堂で食べることになった。
帝光中学の食堂はどのメニューも美味しいのでよく混む。なのであまり行きたくはないのだが、ご飯がないのは午後からの授業が辛い。六時間目には体育があったと思うしなんだか今日は散々な日だ。
さつきに謝りながら仕方なく食堂に向かった。

「あれ? 桃っちと銀城さん?」

最近聞きなれたよく通る声に振り返る。声が聞こえた方を見ればいつもの6人で食事してるみたいだ。毎日お弁当派の私が食堂にいるのが珍しいのか不思議そうにこちらを見つめる征十郎に事情を説明しつつ隣の席に座る。混む前に早くきてよかった。


「また身長伸びてた…」
「いいな〜! 私もあともうちょっとだけ欲しい」
「さつきはそのままで良いよ」
「俺も伸びてたーー」
「俺も伸びてたぜ!」
「征十郎は伸びてた?」
「……ある程度は」

これは征十郎にあんまり聞かない方がいい話題だった。周りに紫原とか緑間とか大きい人がいるから小さく見えるけど征十郎も平均身長なんだよね。見えないとかは言ってはいけない言葉だ。

しばらく他愛ない話をしつつ楽しくご飯を食べていたのに青峰が放った何気ない一言で私の昼休憩は一気に台無しになってしまった。

「なんか喉乾いたな。ジュース飲みてえ」
「俺も飲みたいっス」
「そーだ! おい呉羽!こいつとジュース買ってこいよ!」
「はあ!? なんスかそれ!!」
「大ちゃん!! また呉羽ちゃんにそんなこと言って!」

青峰は私のことをなんだと思ってるんだと不満を感じるが、ちょうどお茶が欲しいと思っていたので自分の中の良心を総動員し「一人で行くから大丈夫」と黄瀬涼太に伝え食堂を後にした。

……のだが

「あの、別に一人で構わないよ」
「女の子一人にパシらせられないっスよ!」
「ありがとう……」

彼が分かっているのかは分からないが、黄瀬涼太の横に並んで歩くということはそれだけ注目されるということでもある。一応征十郎の従姉妹でもあるので見られることには慣れてるが、それとはまた視線の意味が違うのだ。主に女子生徒の。
人一人分の距離を保ちながら自販機までの道を歩いて行く。ちゃんと食堂にも自販機は置いてあるが青峰の注文のジュースは食堂から離れた自販機にしか入っていない。全くもってめんどくさい奴だ。

「銀城さんは赤司っちの従姉妹なんスよね?喋ってるのよく見るし仲良いんスね」
「うん」
「……あー、ショウゴくんと友達だったのは意外だったっていうか…驚いたっス」
「あぁ…よく言われる」
「そうっスよね……」
「……」

会話もなくなり、お互い無言で自販機に向けて足を動かす。ハタから見ればさぞおかしい光景なんだろう。
ちら、と横を歩く人を盗み見してみる。目につく長い睫毛に太陽に反射して輝くきれいな髪、鼻筋の通った鼻と形のいい唇。誰かと目があったりするとよく笑っているし人懐っこい性格だと思っている。
言うことなしのイケメンなんだろうけど、理由はよくわからないが私は黄瀬涼太がニガテだ。キレイすぎて中身が見えなくて怖い、なんて中学生特有の厨二病かもしれないけど。

「あ! 着いたっスね!」

この空気から解放されることに安堵し、分からないように軽く息を吐いた。

「多分これだと思うから、買って帰ろうか」

さっさと買って帰ろうとする態度に自分でも可愛くないなと思いつつ早く食堂に着いて欲しくて、また人一人分の距離を開けながら速足で帰った。
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