遅日の和解
征十郎から主将になることを教えられた。虹村先輩がバスケ部をやめるわけではないみたいでそこは安心した。
それと祥吾が退部した。
その後すぐに黄瀬がレギュラーになった。
以上がここ最近で起きた私の中のベスト3事件だ。この3つが一気にきたもので頭がついていかず、最近常にぼーっとしている。授業も全然聞けていなくて先生に注意されるしマネージャーの仕事も疎かになってしまってつい先程怒られたばかりだ。
パニックになった時すぐに考える事を辞めてしまうのが昔からの私の悪い癖だった。それに隣には大体いつも征十郎がいたので大抵のことは征十郎が対応してきくれていた。
が、よりにもよって今回私を悩ませる元凶の1つが征十郎なのだ。今までにないことにこれ以上ないくらいに困惑していた。しかも悲しいことにここのところタイミング悪く、虹村先輩と満足に喋る時間も確保できていない。会えば真っ先にでも主将を辞めた理由を聞きたいのに。
文句があるといえば、祥吾が退部したことだって聞いてもなかったし相談もなかった。相談なんかはしないタイプだろうけどそれでも一言欲しかったのだ。一応友達だと思ってたし仲が悪いこともなかったはずだ。

「銀城、ボトルが足りていないのだよ」
「銀城さんこれ紫原くんのシャツです」
「呉羽ちゃん…それ反対だよ」
「呉羽それ洗剤じゃなくてドリンク!!」
「呉羽練習メニューがおかしなことになってる」
「おい銀城これーーーー」

「すみません!!!」

まさかのありえないくらいの失敗続きである。流石に自分でもここまで動揺してるなんて思っていなかった。こんなに失敗するなんて、虹村先輩に呆れられていないかどうか不安になってしまう。
時間が経つことで悩みが解決するわけでもなく、日に日に悩みの種は増えるばかりだ。気がかりなことといえば、最近たまにだが征十郎と話していても時々征十郎じゃない違う誰かと話しているような気になる時がある。ハッキリとそう思うわけではなく違和感を感じるというか何というか。とにかくそのせいで満足に落ち着く場所がないのだ。

「呉羽ー!これ干してきてくれる? 焦らないでいいからね」
「はい!」

洗い立ての洗濯物が入っている籠を受け取り、こちらを気遣ってくれる先輩の優しさに感謝しながら太陽の光が眩しい外へと出て行く。
照りつける日差しのせいでじわりと汗が滲んでくる頃、洗濯物が残りちょうど半分ほどになった時だった。

「銀城さん?」
「あ、黄瀬…君、お疲れさまです」

もう休憩が入る様な時間なのか。ここは割と風通りもいいから涼みにでもきたんだろうと結論付け、後ろの陰に腰を下ろした黄瀬涼太に戸惑いながらもまた洗濯物干しを再開させた。
ーーよくわからないが洗濯物干しというのは近くに人がいるだけでこんなに緊張するものだったろうか。でも、他のマネージャーと一緒にしたりするときは緊張なんかしないのでそんなことはないはずだ。
なにをそんなに意識してるんだか、良くも悪くも黄瀬涼太はわたしの中では大分特別な位置にいるみたいだ。

「銀城さんて俺に怒ってたりしないの……?」

突然話しかけてくるのは心臓に悪いのでやめてほしい。というか私は黄瀬涼太に何か怒るようなことをされただろうか。思い当たる節が一つも浮かんでこない。

「えーと……何に?」
「ショウゴくんのこと、俺レギュラー奪ったじゃないっスか」

そんなことで怒るほど私は黄瀬涼太に祥吾となかよしアピールでもしてたのか。
……強く否定はできないかもしれないがそんな風に思われるのは心外だ。そもそもあれは黄瀬涼太からは仲良しに見えたのか。

「そんなことで怒らないよ。黄瀬君がそれだけ頑張ったってことだし、祥吾も練習に来ないしレギュラー外されても仕方ないよ」
「けっこードライっスね……」

ドライというか、祥吾と私は相手に同情したり、お互いののために怒ったりするような仲ではないだけだ。

「あ、それとまだ言ってなかったから。レギュラーおめでとう黄瀬君」

これは帝光中学バスケ部のマネージャーとして選手に言わなければならない言葉だ。
時間が経っても反応がない黄瀬涼太が気になって振り返ればそこにあったのはすっごい間抜けな顔した黄瀬涼太だった。
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