輝く春日
目を大きく開いて中途半端に口を開いているのはあの黄瀬涼太だ。イケメンでも間抜けな顔になるとすごく間抜けだ。

洗濯物を抱えて訝しげな顔をしてる自分が言えることではないが、それくらい今の黄瀬涼太は私の中の黄瀬涼太とは一ミリも結びつかなかった。
勝手な見解であるが、黄瀬涼太という人は常に自信にあふれていて女子相手にはいつもの特段楽しくもなさそうな同じ笑顔を向けているイメージなのだ。
なんだかいけないものを見てしまった気がして、いたたまれない気持ちになる。

「なにか……気に障った…?」

思いのほか刺々しい声になってしまった。マネージャーとしては選手に対して平等に接するべきなのに黄瀬涼太相手だと思うようにいかない。いま思えばこれも彼を苦手な理由なのかもしれない。

「ーーえ……あ、違う! そーゆーことじゃなくて! 俺てっきり嫌われてると思ってたから驚いてっていうか……」

段々小さくなってく姿に今度はこっちが間抜けな顔になってしまう。そう思われる原因はあるかもしれないが彼は誰かに、たった一人の人に嫌われるのを気にするような人だったか。

「嫌いじゃない。……好きってことでもないけど」
「えっ。嫌いじゃないんスか?」
「うん、そうだね」
「そ、そうなんスね……」

なんなんだこの空気は気まずい、気まずすぎる。前の自販機の時とは比べ物にならないくらい気まずい。というか、そこまで私の評価というものは彼にとって大事なことなんだろうか。
暫くの間沈黙が続き、そろそろ耐えきれなくなったので洗濯物を握りしめたまま会話の切り口を探し始めた。

「あの、銀城さんって結構青峰っちとかと仲いいじゃないスか……頼りにされてるっていうか。……けど俺のこと好きじゃなさそうで、それでなんか勝手に認められたいって思ってたんスよね」

照れ笑いながら言葉を発する黄瀬涼太を失礼ながらガン見してしまう。

「そう、なんだ……」

ーー予想の斜め上の上すぎてどう反応したらいいのか分からない。なんなんだそれは、みんなとの付き合いは一年からだし黄瀬涼太より親しいのは当たり前だと思うけれど。
しかし、私だってこんな事を言われて嫌な気分になるほど捻くれてるわけじゃない。それにもしかしなくてもこれは私が黄瀬涼太という人への認識を改めるいい機会じゃないだろうか。

「黄瀬君ってよく分からない人だと思ってたから驚いてる。……でも私も君のこと知りたいと思うから、これからよろしくね黄瀬」
「こちらこそよろしくっス! 銀城っち!」

その変なあだ名って尊敬しているとか認めてる人につけるやつじゃなかったか。
そういう風に捉えてもいいのかどうか戸惑いつつ、少し黄瀬涼太という人に興味が出てきた。
自分の中の黄瀬涼太が少しずつ変わっていっていることに気づいたが、嫌な気分ではなかったのでそっとしておくのもいいかもしれない。

「あ、もうちょい休憩あるし干すの手伝うっスよ」
「ありがとう。助かるよ」

シワシワの湿っているTシャツを掴んで干し始めた黄瀬を横目で見ながら人生って分からないものだなと思った。


寝る前に、あの時少しの間悩みを忘れてた事に気づいた。
黄瀬はもしかするとすごい人かもしれない、彼とはいい友達になれるかもなんて自分の考えに笑いながら眠りに落ちていった。
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