薄氷が微笑んだ
「銀城っち〜もう無理っス……」

机に倒れこんで項垂れる黄色の頭を見て頭が痛くなった。まだ勉強を始めてから十五分も経っていない。黄瀬は予想の十倍は馬鹿だった。


部活終わりの帰り道、いつものメンバーでコンビニに寄って買ったアイスを食べていた時だった。

「そういえばもうすぐテストか。」

征十郎の放った一言で先程までわいわいと騒いでいた青峰と黄瀬が凍りついた。赤点で心配なのはと言えばこの二人だ。
そういえば紫原は意外にも赤点は取らないし賢いしで驚いたのは一年生の初め頃だっただろうか。

どっちが馬鹿か争っている二人は心配だが、まあ征十郎がなんとかしてくれるはずだ。征十郎に任せておけばなんとかなる、これは自信を持って断言する。
このメンバーで頭がいいのは征十郎と緑間、次くらいに紫原と私でさつきと黒子、後は青峰と黄瀬……正直ここからは大した差はないので悲しい争いになってくる。

「ぜーーーーったい! 青峰っちのほうが頭悪いっスよ!」
「んなわけあるか! ふざけんなよ黄瀬!」
「……そうだな。」

赤点回避のために何か案でも考えてるのか、顎に手を当てて考え込む征十郎を横目に見ながら最後の一欠片を食べた。あ、当たり。


「俺と緑間は青峰に、呉羽は黄瀬に教える。これでどうだい?」

握っていた折角の当たり棒が地面に落ちた。横から「銀城さん当たりですよ」とか黒子の声が聞こえた気がしたけど思考は征十郎の言葉だけを考え出した。
私が黄瀬に勉強を教える。そりゃ最初よりは随分仲良くなったけど二人はキツイかもしれない。嫌、絶対キツイ。 征十郎からは二人でもいけるように見えるのだろうか。

断ろうと征十郎を呼ぶ。なのに「頼んだよ呉羽」なんて笑顔で頼まれてしまえば、私はもう引き受けるしかないのだ。


「まだ初めて十五分! 問題解いて! 分からなかったら聞いて!」

これは酷い。始まって早々にペンを放り投げた黄瀬に更に頭が痛くなった。私の力で赤点を回避させることができる気がしない。

「ははっ! まあ頑張れよ黄瀬。……けど、赤点取ったらどーなるかわかってんだろなあ!」
「が、がんばります……」

やっぱり虹村先輩を呼んで良かった。一対一で教えることは流石に困ったので虹村先輩に私に教えるついでに黄瀬も見て欲しいと頼み込んだのだ。
虹村先輩と二人になれる時間を無くしてまで教えてるんだ。黄瀬には赤点回避してもらわなければ困る。

「銀城っち分かんないっス」
「ここはこうして……」

「先輩解けない!!」
「公式思い出せ」

「……最初っから分からないっス」
「もう一回するぞ」

「……もう俺赤点でいいっスよ〜」

これは青峰に教えたほうが良かったかもしれない。誰だ黄瀬は容量がいいなんて言った奴は。項垂れる黄瀬に思わずため息が出た。


「うし! もう昼だし休憩すっか! なんか適当に買ってきてやるよ」

席を立ち、伸びをしながら虹村先輩が言った。そろそろ十二時になりそうだし昼休憩を挟むのにはいい時間だ。

「まじっスか! 俺肉がいいっス!!」
「私ついていきます」

慌てて同行を申出るが、休んどけと断られてしまった。
虹村先輩を見送ってから、隣で嬉しそうにしている黄瀬と二人だけの教室を見て本日何度目かのため息をついた。
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