過ぎ去った花曇り
「そうだ! 銀城っち自己紹介しよう!」

まるで「良いことを思いついた」なんて顔をしながら提案してくる黄瀬に首をかしげた。さっきまであんなにダラダラしていたのに、一時的に勉強から解放された黄瀬はいつも通り輝きだした。

「自己紹介……?」
「そうっス! 銀城っちのことあんましらないんでお互いを知るいい機会っスよ!」

接してみて気づいたことといえば黄瀬はこういった急な提案が多い。私に気を使ってのことなのかは計りかねるが、そういう柔軟な姿勢は素直に羨ましく思う。
黄瀬について知っているのはモデルをしていて、誕生日は……六月十八日、それからO型……A型だったけ。
考えてみれば意外と知らないものだ。断る理由もないので

「確かにあんまり黄瀬のこと知らない」

私の答えに待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で黄瀬が自己紹介をしていく。

「名前は黄瀬涼太! 6月18日生まれのふたご座っス! 血液型はA型、趣味はカラオケで好きな食べ物はオニオングラタンスープ! それから嫌いなものはうなぎとミミズ。特技は利きミネラルウォーターっスね!! 知ってて損はしないっスよ!」

前のめりになりながらまくし立てる黄瀬に苦笑しながらも忘れないように頭に記憶していく。
思い返せば部活がない日なんかにはカラオケによく行ってるというのは、あっちゃん達から聞いていたかもしれない。

「今度は銀城っちの番スよ。あ、誕生日とかはちゃんと覚えてるから大丈夫っス!」
「あ、ありがとう……うーん、趣味は読書かな。特に嫌いなものも好きなものもないと思う……特技は強いていうなら茶道とか?」

自分で言っておいてあれだが、なんというかとてつもなくツマラナイ人間だ。

「お茶たてれるんスか!? ミルクいれていいなら今度飲みたいっス!」
「一口くらい普通に飲みなさい」

邪道だ。それは邪道だよ黄瀬。
それからは、二人は気まずくなるのではという不安も杞憂に終わり、のんびり会話しながら虹村先輩の帰りを待っていた。


いよいよ夏休みに入り、これからは毎日部活漬けになる。バスケ部には全中連覇の期待が学校中からかけられているのもあり練習はとても厳しい。夏休み前にはクラスの子達が「頑張れ」と声をかけてくれたりもした。

部活を辞めてからの祥吾の学校生活は予想通り荒れていて、最近だと他校と喧嘩をして大怪我をしたらしい。
バスケを嫌いなはずなんてないのに、辞めてしまった祥吾はどんな気持ちなのだろう。私は好きなことをできないのは辛いと思う。

皆とは無縁だと思っているが、個人的にバスケを辞めずにこれからも続けていてほしい。やっぱり、楽しそうにバスケをしている姿が一番似合っているのだ。

ふと視線を床にやると、遠くで倒れている物体を見つけた。

「黒子!? しっかりして!」

心の隅でだんだんと大きくなっていく不安に気づかないふりをして、慌ててタオルとボトルを掴んで走っていった。
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