苦い砂糖水
「これより帝光中学校対角岡中学校の試合をはじめます」
「もうそんな時間!?」
通路を歩いていた時に流れて来たアナウンスの声を聞いて、急いで席に戻る。

全国中学バスケットボール大会。
いよいよ始まった全国への出場を獲得するための地区大会、帝光の初戦の相手は角岡中学校だ。

「呉羽ちゃんまた緊張してる! みんななら大丈夫だよ」
「分かってるんだけど初戦はやっぱり緊張するというか……」

角岡中学校は全国へ出たことはないチームなので正直言えば苦戦するような相手ではない。それでも初戦というものは緊張してしまうのだ。

「わ! 本当に黄瀬くんだ!」
「ガンバレー!!」
「雑誌と同じ顔! かっこいいーー!」

場所と人は変わっても黄瀬への声援はいつも通りみたいで、失礼ながらその事が面白くて少しだけ緊張がほぐれた。


着々と点を決めていき、選手交代で黒子が黄瀬と入れ替わりにコートに入る。
黒子のプレイには必要なものだが相変わらず影が薄い。周りの人たちには「ウスッ」「だれ?」とかひどい言われようだ。
しかし黒子と青峰のコンビネーションでアリウープが決まると、反応が戸惑いから驚きに変わる。
黒子だって影が薄くても帝光バスケ部の一軍メンバーだ。自分のことではないが、周りの驚きが黒子を褒めてるみたいでついつい嬉しくなる。それにしても、いつまでたってもあのパスは本当に意味がわからない。


その後は無事に帝光が勝利し、試合が終わった。監督から今日の試合への言葉を聞いて今日はもう解散となる。

「見たっスか黒子っち! 俺の完璧なダンク!」
「はい。すごかったです」
「テツくん今日もかっこよかったよ〜!」

「疲れたーー。糖分足りないー」
「紫原、速く歩くのだよ」
「みどちんうるさーーい」
「なんだと!?」

各々好きに話す姿につい笑ってしまう。
今日は初戦突破があったからかいつもよりみんな賑やかな気がする。
だから余計にいつもより静かな隣を歩く人がきになる。こんな時いつもは一番うるさいはずなのに。

「青峰何処か痛んだりしてるの?」
「べつにそーゆーことじゃねーよ」
「ふーん?」

視線をそらしながら答える青峰に違和感を感じながらもそれ以上の追求はやめた。言いたくないことを無理に聞く趣味はない。それに、なにかあればその内言ってくれるだろう。

「……最近すげー調子いいんだよな、俺」
「? いいことじゃないの?」
「そーなんだけどよ……」

いまいち青峰の言いたいことが分からない。選手同士だったりすればなにか分かる部分があったりするんだろうか。

「なに話してんスか青峰っちーー!」
「ぐえっ! いてぇだろ黄瀬ぇ!!」
「ったぁ!!!」

青峰にタックルをかました黄瀬が青峰に一発殴られて涙目になってる。あれは痛そうだ。

「銀城っちは見たっスか!! 俺のダンク!」

黄瀬が犬なら尻尾でも降ってそうなくらいに期待を込めた目で見られる。

「ちゃんと見てたよ。すごかったね」
「本当に思ってるんスかー!?」


ワーワー騒いでる黄瀬を静かにさせるために青峰と一緒に褒めまくると、黄瀬が本気で照れたのはまた別の話。
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