向日葵は既に沈んで


「人形っていってもここ人形だらけっスよ? 見つけられるんスか」
「そこはフィーリングっていうか直感ていうかー」

黄瀬君の突き刺さる視線が痛いけどそんなことは気にしない。見つかるって思ってたら見つかるはずだよね!

「えぇ……アンタ良くそんなので生きてこれたっスね」
「まあ私はちょっと特別ですからね!」
「はいはい」

そこはかとなくムカつくぞぉ。けどバカにされてるような感じはしないし心の広いお姉さんだから許してあげよう。

「じゃあ戻るから乗ってくださいっス」
「ほ?」

突然その場にしゃがみこんだ黄瀬君の考えが分からなくて「意味がわからない」という顔を向ける。黄瀬君の綺麗な顔が歪んだ。せっかく整っているのに、ちょっと勿体無い。

「だーかーら! 背中に乗ってって言ってるんス!」
「あ、なるほどね。……なんで?」
「またあのクロエって奴が来たらアンタ走れなくなるかもしれないからっスよ!」

イケメンが怒ると迫力がある。勢いに任せて黄瀬君の上に乗った。おお、細そうなのに意外と筋肉がある。これは貴重な細マッチョだ。

「さあ黄瀬君いざ尋常に!」
「吐いたら落とすっスから」

割と物騒なことを呟いた黄瀬君は無視してクロエの本体の人形を見つけるために考えを巡らす。
まずはなんで黒子君を選んだか考えようかな。私は無理だとして黄瀬君でもよかったはずだ。綺麗なものが好きって言ってたし見た目だけなら黄瀬君の方が綺麗だと思うんだけどね。

「うーん黄瀬君以上に私と黒子君が綺麗な理由かあ」
「いやいや顔だけなら俺っスからね」
「見た目じゃないなら心? 私の心が綺麗……!?」

心が綺麗ってもっとこう天然系な子のことを言うんじゃないのか。現世に染まりきっている底意地の悪い私の心は果たして綺麗なのか。
なんかこのまま考えても答えが出なさそうだし諦めよう。じゃあ次に考えれるのは見た目が似てるとかかな。

「そういえば黒子君に似てる人形あったよね」
「そういやそんなのあったっスね」
「でもあれからは何も感じなかったから違うと思うんだよ」
「それアンタの勘じゃないスか」
「私の勘は意外と当たるんだよ少年」

そう自身ありげに言えばまた黄瀬君が変な顔をした。別に私だって理由もなく信じているわけではない。なんていったってここに来てからの私の勘の命中率はほぼ100%なのである。だからこんなにも自分の直感に自信があるわけだ。

「まあ、俺はなんもわかんないスからアンタに任せるけど」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか黄瀬君!」
「うわ! 動かないでくださいっスよ!」

なんだか嬉しい気持ちになったのでわしゃわしゃと黄瀬君の頭を撫でてあげた。ちょっと嫌そうな顔をされたけど辞めろとは言われなかったのでもう少しだけ撫でておいた。


「無事に戻ってこれた!」
「疲れた……」
「あの人形どこら辺にあったっけなー」
「あっあれじゃないスか」

黄瀬君が指した方にあったのはあの人形だった。時計の下にポツンと一人だけで転がってて可哀想だ。

「一人で寂しくないのかな」
「少し寂しいですね」
「ひえええええ!!! 人形が喋ったああああ!!!!」
「ぎゃっ!」

あまりの怖さに咄嗟に人形を放り投げて黄瀬君に飛びついた。人形が喋るっておまっチ●ッキーかよ! いきなりとかそういうのお姉さん良くないと思うなあ!!

「ほ、ほんとに喋ったんスか……?」
「絶対喋った」
「ちょっとなんで押すんスか!? アンタが行ってくださいよ!」

バレないように押してるつもりだったけどバレてた。だって嫌じゃん。人形が喋ったか確かめるってそんなの。
いやでも意外と私の心の声が無意識に漏れた可能性があるかもしれない。それだわ。これがファイナルアンサー。正解。

「早岐さん放り投げないでください」
「ああああああ無理いいいい!!!」
「待って待って待って無理無理無理無理」
「静かにしてください」
「ったあ!?!?」

二人して叫んでいたら人形に思いっきり殴られた。うわ、いたい……。なんだこの人形腹立つ〜。

「もしかしてこれ黒子っち?」
「黄瀬君の頭おかしくなったじゃん。人形お前のせいだぞ」
「落ち着いたからって急に図々しくならないでください。それと、黄瀬君の言う通り僕は黒子です」
「マジか」

アカン。なにいってるかわからん。混乱しすぎて関西弁になってしまった。


「ーーえーっとつまり君は黒子君だけど黒子君が入ってるこの人形はクロエの本体の人形じゃないんだね」
「はい」
「頭を使いすぎて頭が痛い」
「早岐さんって青峰君並みに馬鹿ですね」

私と一緒にされるなんて青峰君って子かわいそう。同レベとか同情するわあ……。

「黒子君は本体がどれかわかるの?」
「どれかは分かりませんがある程度までは絞り込めると思います」
「さすが黒子っち!」
「じゃあお願いします黒子先生!!」
「任せてください」

人形だから表情は変わらなけれど多分、今ドヤ顔をしているだろう黒子君人形(黒子君が入ってる人形だから)を胸に抱いて歩き出す。

「あの黒い服と金髪とピンクの服を着ているのは怪しいです」
「なるほどなるほど。うーん、あんまりピンとこないかも」
「なんか疎外感感じるっスー!」

二人でうんうん唸ってると突然寒気がした。背中に氷でもいれられたみたいに冷たくて、また息がつまりだした。

「どうしたんスか?」
「クロエがきてる。すぐそこに居てる。黒子君もうちょっと頑張ってくれるかな。お願い」
「黄瀬君早岐さんを任せます」
「わ、分かったっス。とりあえず走れるように手掴んでてください」

黒子君を片腕で抱きしめながら黄瀬君の手を掴んだ。そのすぐ後に、視界にクロエが映ったと思ったら黄瀬君にすごい力で引っ張られた。必死で足を動かしながらも本体を見つけるために周囲に目を配らすのも忘れない。クロエもこっちに気づいたみたいで、笑顔でこっちに向かってくる。
どうしよう、どうしよう。クロエは走ってないはずなのにどんどん近づいてくる。競歩の大会にでたら優勝だねははは。

「黄瀬君、早岐さん前を見てください!」
「前?」
「行き止まり……! さっきまではあったのになんで!?」
「あら大変だわ! ……うふふ。ここは私の世界ですもの。私の好きなように変えれるのは当然でしょう?」

花が咲いたみたいに綺麗に笑ってクロエが言った。後もう少し、本体さえみつければ終わりなのに。お願いだから見つかって。働け私の勘!

「さあ鬼ごっこはもう終わりにしましょう」
「っ! ……黒子君もう二回ごめん!!」
「え」

黄瀬君の手を離して腕を思いっきり振りかぶって自分の最大の力でクロエの顔に黒子君人形を投げつける。クロエが怯んだ隙に横を通り抜けて一体の人形を掴んだ。

「正解はこれ! でしょ!!」
「なっ、どうして!」
「私の勘はよく働くものでして!」

「えい」なんて可愛ものじゃなくて戦国時代の猛者と言われても納得してしまうくらいの気合いで上のドアに人形を投げた。

「私はただあなたを守りたかっただけなのに……っ!」
「悪いけど自分のことは自分で守りたい人間なの!」
「あなただって分かっているでしょう。もう無理をするのはやめなさい……」
「私は最後まで諦めないよ。それに新しい仲間もできたしね」
「何をしても無駄みたいね。……上手くいくように祈っているわ」

黒子君の体からクロエが出て行って黒子君が出て行った人形がドアに吸い込まれていった。色々あったけど黒子君は助かったし最後にクロエが笑ったので万事解決ってことでおっけーだよね。

「最後何話してたんスか?」
「秘密ー」
「……じゃあなんで本体があれってわかったんスか?」
「黒子君がガン見してたし私の勘もそうだと叫んでからだね」
「単純だった」
「眠たいです」
「てことでさっさと寝て火神君の元に帰ろー!」

いつも通り全部終われば急激に眠気が襲ってくる。目を閉じればもう夢の世界だ。



「ーーきー! ーはーーけろ!」

私の睡眠を妨げる命知らずはどこだ。この疲れはちょっと寝ただけじゃ収まらない。半日くらいの睡眠が必要なんですお母さん。

「おい早岐起きろ!」
「お母さんあと五分ー」
「だー!! んなこと言ってる場合じゃねえんだよ!」
「火神っち速く!」

あれ、紫苑の匂いがしない。ていうかなにこの浮遊感。これは投げられてるぞ。確実に私が投げられてる。
目を開いたら床だった。

「うっ」
「うわ痛そう……」

助けろよ黄瀬君。お前割と筋肉あるだろ。しってるんだぞー! ああ顔が痛い。
ずっと寝ているのはさすがに恥ずかしいので立ち上がった。

「ここ三棟? え、火神君一人で三人運んだの!?」
「しゃーねーだろ。暫くお前ら起きなかったんだから」
「火神君好き」
「ふざけてないで行きますよ」
「うす」

黒子君がノってこなくて悲しいから黒子君がノってくるようなネタを考えないといけなくなってしまった。今後の私の課題ですね。馬鹿に文学少年の相手は難しいです。

「そういえば黄瀬君ってなんであそこに居たの?」
「えっ……黒子っちと火神っちが帰ってくるの遅かったから見に行ったら飲み込まれて」

イケメンの照れ顔は破壊力あるわ〜。イケメンがいるなら可愛い子も欲しくなるね。男ばっかで華がないよ。

「結構ダサい理由だった」
「ダサいってなんスか!?」
「誰かを庇ってとか理由もイケメンなのかなって思ってたけど黄瀬君だもんね。期待してごめん」
「お前一人で来たのかよ。危ねえだろ」
「火神っちぃ……」

一人で来るほど黄瀬君は黒子君が好きなの? 文学少年はもしかしなくてもすごい人なのかもと予想してたけど確定しました。文学少年はすごい。

「黒子君ちょー怖い」
「なんですか突然」
「黒子!」

本屋から出て来たのは赤い髪の男の子だった。全身から賢そうなオーラが出ていて仲良くなれる気がしない。バカは嫌いって顔に書いてるもん!

「赤司君!」
「無事なようで安心したよ。……そちらの女性は?」
「あっ早岐湊です。黒子君達には色々助けてもらっています」
「な、なんですか。その賢そうな挨拶は!?」

失礼だな黒子君。こんなに賢そうオーラが出てる人にバカみたいな挨拶できるわけねえだろ!

「そうですか。外に出ていては危ないですし、中に入りますか?」
「あー、お願いします」

すっごい線引かれてるんだけど私は大丈夫なんですか黒子君。顔が若干引きつったのは見逃してほしい。火神君と黄瀬君が苦笑いしたのは見逃さないけどね!

「赤司君が怖いんですが火神君」
「赤司っちはちょっと他人に厳しいだけっスから」
「俺はわかるぜお前の気持ち」

やっぱり女心をわかってるのは黄瀬君より火神君ってことだね。

「黄瀬、火神。なにをしてるんだい」
「今行くっスー!」

ただの本屋が戦場に見えてきた。赤司君はヤバイ感じがする。一つ間違ったら私のやってきたこと全部が崩れるようなそんな感じ。赤司君だけは慎重にいかないと。
猛烈に入りたくない気持ちを抑えて一歩足を踏み出した。

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