すべては愛ですとも




※耳郎視点


「麗日今度ごはん行かね?何好きなん?」

 そんな上鳴の声が聞こえてきて、一瞬耳を疑う。あれ、上鳴ってなまえのことが好きなんじゃないの?近くになまえがいるこの距離で、なんで別の女子をデートに誘ってんの。二人は幼なじみだというのは前に聞いたけど、それはそれ。二人はお互いのことを好き合っているんだと思っていたけど。
 なまえはなまえでウチの前の席である障子の椅子を勝手にお借りしていて、最近流行りのロックバンドの新曲PVがハイセンスでカッコイイんだよ!とのんきに熱弁をしていた。あ、こりゃ上鳴の声聞こえてなかったんだな、と思う。

「ウチも見たよ。カッコよかった。でもさ、話変えて悪いんだけど、なまえの幼なじみ節操なさすぎじゃない?いいの?アレ」

 人差し指でアレアレ、と視線を誘導して、上鳴と麗日さんのやりとりを聞いてもらう。一瞬その真意を図りかねたのか、ん?と何かを尋ねかけたが、思いつく節はあったのだろう。「ああ、アレね」とカラッと笑って見せた。

「いつものことだよ。私、ああいうの気にしないよー。確かにパッと見た感じケーハクそうに見えるけど、たぶん電気は女の子大事にする男だと思う。その辺は信じてあげて」
「え、いや。じゃなくて。麗日さんとくっついちゃってもいいの?本当に?我慢してない?」
「してないしてない」

 これは、愛想笑いとかではない、と思う。
 どうやら本気で気にしていない風のなまえにただただ驚かされる。初日の個性把握テストもそうだけど、先ほどのヒーロー基礎学でぴったりと息の合ったコントを見せつけられて、ウチ、てっきりなまえは上鳴のこと好きなんだと思ってた。幼なじみが両片思いをこじらせすぎて、互いの家を行き来することで恋人気分を味わっているんだとばかり。
 そのことを素直に告白すると、なまえは「あー、それよく言われる!」と軽い口調で笑い飛ばし、とスマホで動画サイト開き始めた。おそらく先ほど話に出てたロックバンドのPVをあさっているのだろう。
 さあさて果たして好きな男のナンパの動向を探るよりも、流行りのロックバンドのPVを優先する女子がいるのだろうか。しかもよだれが零れ落ちそうなほどの満面の笑み。はぁ、ボーカルの人かっこいい。なんて感嘆のため息まで吐いて。
 ウチはノーだと思う。付き合ってもないのにそんな余裕しゃくしゃくでいれる女なんているか?いやいや信じられん。
 それなのに、「好きではないんだ?」と聞くと「え?好きだよ?」と返ってくる。え、いやそれって友達としてってことだよね。もしくはそのボーカルの人が好きってこと?
 どうにも天然っぽいなと思って、今回の追及は諦める。周りにはみんなもいるし、こういう話をする機会は今後もたくさんあるだろう。クラスメイトだし。
 ただ、無意識に疑いの目を向けていたようで、「響香ちゃん眉間にシワ寄ってる」ともみほぐされた。

「私は電気が楽しければそれでいいの!ほら、自分が好きな人には幸せになってもらいたいじゃん。だから、響香ちゃんもたくさん幸せになってね!」

 恥ずかしげもなくそんな風に言ってのけたなまえに、言われたウチの方が照れてしまった。思わず言葉に詰まって、お礼の言葉は吃ってしまう。
 いや、確かにそうだけど。それってやっぱり、友達として好きってことなんじゃん?と思って、でもそれは口には出さずにおいておく。上鳴もあの様子ではきっとなまえのことを女子として好きなわけではないんだろうし、本人たちがそれでいいならいいか、と納得することにした。男と女の友情なんて存在しない、なんて昨日見たバラエティ番組では言っていたけど、こんな身近にあったんだなぁ。

「あの、さ」
「ん?」
「う、ウチもなまえには幸せになってほしいから……か、上鳴になんかされたら言ってよ」

 ダメだ、ハズい。どうしてああも簡単に他人の幸せを願う言葉を面と向かって口にできるのか。ウチにはハードル高すぎた。ウチの言葉を聞いたなまえはとてもとても嬉しそうに返事をして、「響香ちゃん好き!」だなんて。ああもう恥ずかしい子!可愛いけど!

「電気がなんかしてくるような人なら、とっくになんか行動起こしてるって!なんか!」

 なまえがへらっとなんでもないことのように言って、なんと返事をしたものかと苦笑を漏らす。いやいや、怖いこと言わないでよ。確かにそうなのかもしれないけど。
 それにしたって、どうして上鳴はこんな良い子に惚れないんだろう。可愛い幼なじみを差し置いて、麗日さんとのデートの約束にこぎつけようと奮闘するアホのことが全くもって理解できなくて、大きな大きなため息を吐いた。

/ 戻る /

ALICE+