背伸びする時間を頂戴




 最悪だ、この展開。私には不利すぎる。

 入学式そっちのけで突然始まった相澤担任の個性把握テスト。しかも最下位は除籍処分。個性把握テストはいいんだけど、その内容がスポーツテストというのがやばい。本当にやばい。私は体操服に着替えて、グラウンドに集合という言葉を聞いた時から嫌な予感がしていた。まさかまさか、と、冷や汗が止まらなかった。これはまずい。ひたすらにまずい。

 私の個性は、超簡単に言うとシールド。防御特化の個性だった。意識を集中させることで、自分を中心にシャボン玉みたいな円形の薄い膜を貼ることができる。外部からの攻撃は任意の方向へ反射させたり吸収することができ、吸収の場合だと、貯めたた分だけ一気に放出する、という超秘も可能だ。今までの経験からいくと、電気の個性はもちろん、夏にエアコンの風が寒いなーと思ったら冷たい空気だけを反射できるし、逆に暑いなーって思ったら太陽の熱や紫外線を太陽さんに反射させたりしてたかな。ちなみに、膜の中から外への攻撃はできないみたい。
 それだけ。それだけだった。つまり私の個性は攻撃を受けてこそ真価を発揮するわけで、こんなスポーツテストには全く役立たない。むしろ攻撃を受けさえしなければ私は無個性と変わらないのだ。
 ああ、こんなことってあるのだろうか。みんなを見てみると個性をフル活用して常識ではありえない記録をどんどんと残していく。じわりと涙が滲んだ。なんだこれ。自分の記録が書いてある紙を見る。なんだこれなんだこれ。あまりに可愛らしい数字が並んでいるのを再確認した後、気が遠くなるのを感じた。なんだ、これ。
 入試の時を思い出す。あの頑張りはなんだったんだ。実技試験だって、本当はもうダメだと思ったんだ。対人戦闘の試験なら相手の攻撃をそのまま跳ね返す私の個性は初見殺しに近い。私の戦い方で一番理想的なのは向こうが強力な攻撃を仕掛けてくれることだから、あまり得意ではないけれど、煽りに煽って攻撃を誘ってやるつもりでいた。なのにこれか、って思ったよね。仮想敵を倒す、ポイントの争奪戦。それは私が最も恐れていた試験方法だった。感情がないロボット相手にどうやって強力な攻撃を煽ればいい。煽る前に他の受験者がかっさらっていくに決まっている。だから私はたった8ポイントしか取れなかった。それはわざわざ仮想敵に踏まれに行ってその衝撃を反射させることで足を破壊、行動不能にさせたり、どこかの誰かの個性攻撃に当たりに行って仮想敵に向けて反射させたりして取ったものだった。もともと機動力なんてものは皆無に近いので、8ポイントでも取れたのは運が良かったのだと思う。結局いつの間にか稼いでいたらしいレスキューポイントなるもののお陰で私は入学できたわけだけど、今度ばかりはどうにもならないだろう。こんなの、どうしようもない。

「なまえ、大丈夫か?」
「う、うん……。あ、いや。大丈夫、じゃ、ないかも」

 胃が痛くなってきた。なんだか気持ち悪い。前傾姿勢でお腹を擦る私の様子を気にしてか、電気が声を掛けてくれる。弱音は吐きたくなかったけれど、今更強がる相手でもなかった。私に体力が無いことなんて、電気はとっくに知っている。運動神経が良い訳でもない。50mなんて9秒切れればいい方だし、個性ナシのドッジボールは顔面キャッチがデフォだ。体育の成績は万年アヒルさんだし、勉強も学年では中の下、いや、下の上くらいか。とにかく良いところがない。それでも私は私なりに電気と一緒に死ぬほど勉強をして、小賢しい方法で仮想敵を数体倒して、受験者の個性に巻き込まれ掛けた他の受験者を守って、頑張ったのだ。そうしてようやく雄英に入れたと思ったら、これだ。やっぱり私に雄英なんて無理だったのかも、なんて思った時、ついに涙が零れた。

「な、泣くなよなまえ!大丈夫だって!」
「うう……でも、私みたいに何も結果残せてない人いなくない?最下位じゃない?頑張ったけど……がんばったけどぉおぉ……」
「確かにお前の個性じゃスポーツテストに結果残せないかもしれないけど!いや!でもほら!相澤先生の冗談っていう可能性もあるし!」
「冗談……だったらいいけど……」

 あの顔は冗談じゃなさそうだよなぁ、なんて相澤先生をちらりと視線を送る。なんか怖いし、冗談とか通じなさそうな人に見える。けど言葉に出すと電気に変に気を遣わせてしまう。涙を拭って「大丈夫、」と伝える。
 ごめんね、ありがと、電気。一応、最後まで頑張ってみせるから。

 大丈夫、大丈夫。
 ぎゅっと身体のいろんなところに力を入れて、私はみんなの「戦い方」をじっと見た。負けられない、負けたくない。一番には慣れないかもしれない。けど、私は私の「戦い方」で勝ちにいく!
 最後まで、絶対、諦めたりしない!

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