出会い


 冒険者の町ラビナ。もともとはどこにでもある小さな田舎村だったが、周辺には古代遺跡が多く、命知らずな向こう見ずが自然と集まり、彼らの宿場町からそれなりに栄える小都市へと変貌をとげた町だ。

 そのラビナの中心部である国際通り、『向こう見ず』の一人である少女サーシャは野菜売りの少女にりんごの代金を支払うと、財布の軽さに顔をしかめる。

「そろそろ本腰入れて仕事探さないと不味いわね……」

 賑やかな露店街の喧騒に掻き消されながらも、呟く声には焦燥感が滲んでいる。今もリンゴを買うか、パンにするかで迷ってからの購入だった。『両方買う』という選択肢はなかったのだ。

 来たばかりの街は土地勘がない。町の案内板を眺めていると、土産物屋に話しかけられるがサーシャは無言で手を振り追い払った。

 ああいう土産物はどういう人間が買うのだろう。ワッペンやら木彫りの置物、持ち歩く人間にはいまだ出会ったことが無いが。サーシャはぼんやりと考えながら、見づらいことこの上無い地図から目的の場所を見つけ出す。現在地から目的地までを指でなぞり、ルートを確認する。りんごを齧りつつ向かうことにする。

 移動するにつれ人の数は少し減り、代わりに美しい空とパエルニスタらしい黄土色の建造物を眺めることが出来た。

 町の中心に配置された噴水に虹がかかっている。受け皿は仰々しく神話の絵に出てくるような貝を象っており、周りにも天使やニンフ像がいたりと少々派手だ。見る人によっては下品だと言いそうな噴水だが、この町のシンボルでもある。その向こうに見えるのは、もう一つのシンボルである、領主が住まうクラウザー城だ。

「噂には聞いていたけど本当に陰気な建物ね」

 この町の賑やかな発展振りとはそうとうミスマッチだった。陰気な印象を与えているのは建設から500年という古さからではない。どこか薄暗い。日の光を取り入れるよりは守りを重視した作りだからだろうか。しかしこんなにも空は晴れ渡っているというのに。

「機会があれば確かめてみたいもんね、クラウザー家の色んな噂」

 サーシャはふふ、と笑うと本来の目的である酒場へと足を向けた。

 薄暗い通りに入ってすぐ、一軒の店の前で足を止める。『地竜の微睡み』とある薄汚い看板を潜り扉を開けた。

 中は真っ昼間だというのに濃度の高いアルコールの匂いで充満している。何人かの男がサーシャの方へと顔を向けると嫌な笑いを浮かべた。

 サーシャは真っ直ぐカウンターへと向かうと、半分寝ているかのように眼を重くした店主に話しかける。

「何か良い話し無い?」

 店主はサーシャをジロジロと見ると鼻をならした。

「ねえよ、ガキの使いなんざ」

 サーシャは笑顔を崩さない。馴れているからだ。まだ若く、小柄な自分に向けられるこういった周りの態度には飽きる程。

 ふとサーシャの耳元に不快な吐息が掛かる。

「俺のお酌してくれるならバイト代くらい出すぜ?」

ひげ面の男からの問いかけにサーシャがどうあしらうか、と思った時、壁に乱
クラウザー家。300年続く名家であり、ここパエルニスタ国では領地の広さはトップクラスだった。半世紀ほど前まではパエルニスタの王家に昇る者もいて力の強さを誇示していたのだが、ある日クラウザー家に落日の日がやってくる。当時の当主ジャン・アルム・クラウザーの猟奇的事件が明るみになったからだ。その頃頻発していた子供や女性の失踪事件、その犯人がジャン・アルム・クラウザーその人だった。被害者は総勢200人。この事件からクラウザー家は領地の半分以上を失い、当主は断頭台へと消えた。

サーシャは目の前にそびえるクラウザー城の城壁を眺め、当時の事件に想いを馳せた。近隣の村から甘い言葉に誘われて連れてこられた幼い子供、女性がまさにこの城で殺害されたのだ。いまいち恐怖が沸き上がらないのは事件の大きさが想像力を超えているからだろう。

サーシャがここに来た理由は「好奇心」、それだけだった。歴史的な猟奇事件を起こした先祖を持つ一家に興味を持つのは、褒められることでは無いが咎められることでもあるまい。

城門までやってくると警備に立っているらしき男に声を掛ける。

青を基調にした法服にクラウザー家の紋章である薔薇が彫られた盾とロングスピアを持ったその男は、サーシャを見て一瞬顔を明るくするが、用件を聞くとつまらなそうに門の中を指差した。

第一関門は突破というところか。

敷地内に入ると数人の冒険者らしき集団がいる。全員が剣など携帯しているようだが、暇そうだ。サーシャを見ると「また来たのか」と言った顔を隠さない。

使用人に案内され城内に入るとまた異様であった。エントランスや廊下にも剣士風の男や術士の風体の女やらが手持ち無沙汰に立っているのだ。

何かクラウザー家が狙われている事態でも起きたとしか思えないような警備体制じゃないか。

サーシャは頭の中で「パンプキン王の宝石」という絵本を思い出していた。確か臆病者の王様が宝石が狙われていると妄想して沢山の兵士を雇う話しだ。結末は……王様は一人カボチャの畑で泣いているといった結末で、サーシャはあまり好きではなかった。





「ようこそ、クラウザー城へ。私は当主アダム・クラウザーだ」

目の前にいる中年の貴族にサーシャは面食らっていた。燃え上がるような赤い頭髪に鋭い茶の瞳という目立つ風貌に、ではなくまさか当主自らが現れるとは予想外だったからだ。

「はじめまして。サーシャ・クルマンです。酒場の張り紙を見て参りました」

アダムに握手を求められ、サーシャはそれに答える。この行動一つでアダムの気さくさを感じた。一歩間違えば押し付けがましい馴れ馴れしさだが。

「遺跡の発掘とのことでしたが?」

サーシャの問いにアダムは頷く。

「左様。この町の北東にある古代遺跡『ワーヴ』に行ってもらう者を探している」

なるほど、とサーシャは納得した。

よりによって『ワーヴ』とは。あそこは古代遺跡の中でもやっかいだ。これで「二度と御免と返ってくる冒険者が多い」という話しは少しわかった気がした。

「その目的は?」

アダムは遺跡の名前を出したにも関わらずサーシャが顔色変えずに質問してきたことにニヤリと笑った。

「この町の周りに数多く点在する古代遺跡、それは町の発展に多いに貢献してきたといえる。だが、モンスターの巣窟、ならず者の拠点になっていることも確かだ」

古代文明の証明である遺跡の現在の形はそうだ。古代遺跡には膨大な力を持っていたとされる古代人が生み出したモンスターがいまだ生き残って番人よろしく現代人の侵入を阻んでいるが、手だれの冒険者たちに踏み荒らされた遺跡にはゴブリンやら野盗やらが住み付いていることが多い。

「そういう事態は領主である私にはとても宜しくないことだ。兵士達を討伐に向かわせたりもしているが、運悪く古代遺跡の魔物に遭遇した隊が全滅したりと胸痛むことが間々あるのだよ。……そこで私は遺跡の開拓に力を入れることにした」

そこまで聞いたサーシャはあまりいい気分はしなかった。ようするに身内が死ぬのは嫌なんで(どこも兵士志願が減っているということもあるようだし)、お前ら何でも屋が行って地ならししてこい、ということだろう。

サーシャの胸の内など知らずにアダムは話しを続ける。

「遺跡へ向かう者には準備資金として手付金を渡している。今のところ順調にいっているようだが、遺跡の中でも比較的危険度の高いところがわかってきた。今言った『ワーヴ』もその一つだ。そういった場所へ行く者には成功報酬も多め払うことにした。……どうだね?受けるならこの先も話すことにしよう」

サーシャは少し考える振りをし、「受けさせていただきます」と言う。どの道この領主自身に興味があってきたのだ。断る気はなかったものの、あまりがっついても足元見られるおそれがある。

サーシャの言葉にアダムは満足げに頷いた。

彼とてサーシャのことを無条件に気に入った訳ではない。サーシャが手に持つ大きなロングボウ、これは単なる小娘が扱えるものではない。お飾りに思われる騎士の称号を持つアダムでもそれはわかる。

「では君と同じように今日やってきた『彼』を紹介しよう。彼と一緒に行動してもらう。……入ってもらえ」
アダムが傍らにいた使用人を促すと、使用人は廊下側とは別の扉を開けた。控室か何かだろうか。隣室から現れたのは銀色の髪を乱雑に結った青年だった。

「カイン君だそうだ。彼にも遺跡へ行ってもらう」

カインと呼ばれた青年はサーシャを見ると渋々といったように挨拶をする。その態度はいかにも「面倒臭い」といった様子だ。

「カイン・レフスタードだ。よろしく」

「サーシャ・クルマンよ。こちらこそよろしく」

サーシャは内心「面倒なのはこっちも一緒」と悪態をつきながら笑顔で応える。

元々一人旅を好んでしているくらいだ。サーシャも青年も腕には自信がある。個人行動の方が気は楽だが、目付け役の意味合いもあるのであろう急ごしらえの相棒を、依頼人の前で無下にも出来なかった。

二人をにこにこと眺め、アダムは依頼内容の続きへと入る。

「二人に行ってもらう古代遺跡『ワーヴ』は私が知る限りでは未踏の地でね、まあ古代人が作りあげたものなのだから現代人では、という話しでだが……、ある噂がある。あそこには『聖杯』を祀っている祭壇があると」

「聖!……杯ですか……」

サーシャは思わず出てしまった大声を自制しながらアダムに問う。

「眉唾ものだと思うだろう?実際確かな情報などないし、噂の根拠になっているのもこの町に昔からある単なる昔話からだ」

「その昔話を俺は聞きたいですね」

カインの言葉にサーシャも頷いた。アダムは増々興奮気味に語り出す。少し不気味だ、とサーシャは思った。

「どこの地域にもその土地にまつわる昔話など両親や祖父母から子供に話し聞かせる風習があるだろう?『ラビナの森に悪い魔法使いがいました』『悪い王様がいました』『悪いドラゴンがいました』こんな感じのね。その悪い存在をやっつけるのが聖杯に祝福された聖騎士なのさ。『ラシャの神官が聖騎士に聖杯を近づけると、聖杯からラシャの祝福の雫が沸き上がり、聖騎士は力を授かりました』」

ラシャとは六大神の中の一つで、騎士や王族、一般人まで信仰する人間は多い神様だ。正義、光明、善行といったシンボルを司り、ラシャを描く宗教画は全て右手に光が宿っている。これはラシャが全ての存在に光を宿す右手を持っている、という話しからきているものだ。

「私が懇意にしている学者がそれに目を付けた。ここまで『聖杯』が登場するのには理由があるのではないか、と。その理由こそがこの地にラシャの聖杯が実在するからなのではないかとね」

「その……ラシャの神殿が古代あった場所が『ワーヴ』だということですね?」

サーシャが聞くとアダムは「いかにも」と肯定した。

「とはいっても嘘か誠かわからない古い文献から場所を想像すると、そうではないか、といった推測でしかないがね。しかし実際ワーヴの近辺までいった兵士の中にラシャの紋章を見た、という者もいるのは確かだ」

「実に、面白いお話だ」

そう呟くカインに、サーシャは妙な含みを感じた。ちらりと青年の顔を伺い見るが、鋭い瞳に浮かぶ感情は深く探ることは出来なかった。





城を出るとすっかり夕方のオレンジ色に町が染まっていた。城門の前にいた見張りも交代されている。

「出発は明日にした方がいいわね。……どう?親睦も兼ねて夕飯でも」

サーシャが伸びをしつつ隣りにいる青年カインに尋ねると、カインはひょい、と肩をすくめる。そして親指で通りを指した。

『付いてこい』といっているのだろう。そのままそっけなく歩いていく。夕飯の帯同には同意したようだが、ひどく素っ気ない態度ではないか。サーシャはそう思い青年の肩を叩く。

「あんたさ、私が気に入らないのはわかるけど、そんなのお互い様なんだから、もうちょっと楽しげにしたら?」

顔を合わせ、サーシャはカインに文句をぶつける。

「……お互い様?そりゃびっくりだな。俺と家出少女にしか見えないお前と同等とはね」

カインの言葉にサーシャは思わずかっとなる。

「い、家出少女ってね!私はこう見えても長いこと一人旅続けてんのよ!?」

「ほおおおお、頼もしいな」

カインは明らかに茶化した声で答える。

サーシャは確かに年齢より子供に見られることが多いが、それを差し引いたらカインも同年代に見える。それを突っ込もうとした時、

「失礼」

野太い男の声にサーシャとカインは振り返る。いつの間にか後ろに立っていた大男にサーシャは面食らった。

「不躾で申し訳ないがお二人に話しがある」

そう言って胸を張る男は、言葉は丁寧だが年は大分上に見える。眩しい程光るプレートメイルに僧侶が好んで着るようなコートを羽織っている。プレートメイル、コート共に胸元には見覚えのある紋章が刻まれている。しかし何よりも目を惹くのが見事なまでに綺麗に剃った頭と立派な体格だ。カインも長身だが頭一つ分大きく、パワー系の重戦士のようだ。

「……ラシャの聖騎士さんが何の用だ?」

カインの言葉にサーシャはハッとする。見覚えがあると思ったら男の胸元にある紋章は先ほどまで話題に上がっていたラシャ神のものだ。

「私はクリストファー・マクスウェル。パエルニスタ王国警備団の者だ」

「あらら!」

サーシャは驚きの声を出し、慌てて口元を押さえた。

カインは周りを一瞥する。

「わかった。場所を移そう」
カインが連れだって来たのは酒場兼食堂といった冒険者には馴染み深いものだった。

目の前に座る体格のいい男を見て、サーシャは口を開く。

「……で、パエルニスタの『キングスナイト』さんが何の用なわけ?」

パエルニスタ王国警備団、正確に言えば『キングスナイト』と呼ばれる王族騎士団とは違う、民間を警備する立場だ。だが普通の警備団は各領主に雇われる形でいるのにたいして王国警備団は王族、つまりはパエルニスタ国王直属の部隊だ。その警備範囲はパエルニスタ国全域になる。その立場故、各領地の警備団より発言権が大きく、どうしても疎まれる存在になりがちだ。『キングスナイト』の呼び方もそこからくる嫌味に近い。

サーシャが名前を聞いて驚いたのは王国警備団を実際目にしたのが初めてだったのもあるが、この王国警備団の出来た理由が半世紀前のジャン・アルム・クラウザーの起こした猟奇事件からに他ならないからだ。

パエルニスタ全域に被害者が広がったせいで犯人確定が遅れ、その為に国家単位の警備団が出来たという。

「つーか坊主が酒飲んでいいのかよ」

カインがラム肉を切っていたナイフでビールが入ったジョッキを指す。

「ラシャ神はお酒は禁止されていない。それに私は酒で酔ったことがないんでな」

「それって飲んで楽しいわけ?ええっと、マクスウェルさん」

「クリスでいいよ」

そういってにっこり微笑まれるが、『クリス』という響きが似合わないから差し控えた、とは言えない。

クリスはジョッキを置くと二人の顔を交互に見た。

「私が君達に声を掛けた理由だったな。簡単に言えば私はクラウザー家を調査、監視しているからだ」

「どうしてまた」

カインが聞くとクリスは間髪入れずに答える。

「クラウザー氏が戦争の準備をしているという噂があるからだ」

サーシャは口の中にあるグラタンを吹き出しそうになった。

「ち、ちょっと……本気で言ってんの?」

サーシャも城の様子を見て頭によぎったことではあるが、あまりに現実的でない話しに王国警備団であるクリスが探りを入れているとは思わなかった。

「ラビナが何処とやって旨味があるんだよ。クーデターでも起こすか?」

カインも懐疑的だ。

「私も確率の低い話しだと思ってはいるよ。ラビナの近郊の町といえばダーバン、ウリトリア、ハシュバルトなんかがあるがどこもラビナの兵力を考えると自殺行為だ。まあ……一番近い町といえばパエルニスタの首都パエルナもあるがね」

そう言ってにやりと笑う。首都パエルナはパエルニスタ国王の治める都市だ。つまりはここに攻め込むということはクーデターを意味する。

「近郊の領地の奪い合いにも参加出来ないような貴族にそんな度胸無いだろ」

カインの言葉にサーシャも頷いた。

「同感だがこれも仕事でね。それにクラウザーが冒険者を大量に雇っているのは事実だ。……それに言いにくいことだが」

クリスは人差し指で自分の頭を指す。

「クラウザー家にはここに問題がある者が多い」

クリスの言葉にサーシャは顔をしかめた。

「言いにくいっていうわりにはっきり言ったわね……」

「君ら二人もクラウザー氏から依頼を受けているんだろう?君らの立場は絶対に守る。お願いだ。話してくれないか?依頼内容だとか城の様子だとか何でもいい」

クリスに言われてサーシャとカインは顔を合わせる。口を開いたのはカインの方だ。

「別に俺はクラウザーに忠誠誓ったわけでもない、ただの雇われ者なんでね。あんた達に話せって言われたら断る理由も無い。でもな、クラウザーから依頼料受け取れなくなる事態は避けたい。あんた一般に顔が割れてるってことはないだろうな」

「それはない。基本、我々は隠密行動だ。町にいる間は私はただの神官戦士として行動している」

「なら結構。でも残念ながら俺らが受けた依頼はクラウザーの護衛じゃない。そういう奴らは城に大量に居たけどな。俺らが受けたのは単なる遺跡掘りだ」

「しかも有るのか確証もない、徒労に終わる確率の方が高い話しよ」

サーシャが溜息をつく。

「なんだね、それは」

「ラシャの聖杯だとさ」

「聖っ!」

「しーーーーーーっ!!」クリスの口元を二人掛かりで押さえ込む。

クリスは暫く口をぱくぱくとさせていたが、辺りを気にしながら小声で語り掛けてきた。

「聖杯だと?君達それが何なのかわかっているのか?」

「何って…知ってる人がいたら教えて欲しいぐらいだけど」

サーシャが呆れながら言うとクリスは無言になる。

ラシャの聖杯、それは古代文明時代の文献に単語が残っているだけの存在。姿形はもちろんその力、使用目的など何もわかっていない。にも関わらず、3人の心の中には「あり得ない話しでは無い」という気持ちがあった。それは聖杯自体は存在し得るものだという事実からだ。

そう思う理由はラシャと同じ六大神に数えられる女神メーニの聖杯を祀っている神殿を有する国があるからだった。

「……聖杯を手に入れて、彼は何をするつもりなんだ?」

クリスが重々しく口を開く。

「知るかよ。それより俺は随分お人好しな領主だと思ったな。俺らが持ち逃げする可能性も考えずに聖杯についてぺらぺらと喋った上に、手付金まで出したんだぜ?」

カインが鼻で笑う。

「その全てが彼の計算の上でだったら?」

「その上を俺がいってやる」

カインの口調は冗談でも言うようだったが、強い意志を感じる。彼なら本当に容赦はしない気がする、とサーシャは思った。

「そろそろいいか?明日は早くから行動したい」

カインが言うとクリスは手で制した。

「話してくれたことは大変感謝する。その上で私の率直な気持ちを言いたい」

「……やっぱりね」

サーシャは小声で呟いた。カインも顔をしかめている。

「ラシャの神官としては今回の話しは見逃すことは出来ない。いや、この展開こそラシャのお導きなのかもしれない……」

クリスは拳を握りしめる。

「君らに同行しよう。なに、旅の仲間は多い方が何かと楽しいだろう。古代遺跡に向かうとなれば私も腕には自信がある。役に立つことは保証しよう」

にこにこと言うクリスとは対象的に、露骨に嫌な顔をする二人。

「……なんで勝手に決めて、しかも断定形なんだよ」

「……まあ、こうなることは分かりきってたけどね」

二人はお互いに溜息をついた。

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