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「エールさーん!!」
「あぁ?」

店の奥で出来るだけ大きく声をだす。

「ここの本、全部出してもいいですかー?」
「任せる!!」
「了解です!!」


エールさんに拾われてから早数年。私はここで、いくつかの歳をとった。
最初こそは不安しかなかったここでの生活も、次第に慣れて行き、エールさんとは兄妹のような関係でいる。


『ここが、俺の店だ』


あのとき、下で見せてもらったお店はまるで本屋さんだった。
本が数えきれないほどたくさんあり、棚の中に陳列されているわけじゃなくて、ただただ積み上げられていた。
パソコンもたくさん連なってあって、コード類で足を引っ掛けようものなら問答無用で頭を叩かれる。しかもかなりの力で。

エールさんのお店は限りある人しか入れない。
今までこのお店で働いてきたけれど、本当に両手で数えきれられるような人しか来たことがなかった。
それでも経営が成り立っているのは、エールさんの情報が本物で、かなりの腕であるから、という事の他ない。報酬がウン億もの桁でくるからだ。

なぜ客が少ないのかは未だに分かっていない。
ただ、初めて会った時に言っていた『ネン』というものが関わっているのだろう、と思った。


私のここでの仕事は大量にある本の整理。そして、エールさんの今までの仕事の書類整理。
あと、ここは普通に本屋さんとも成り立っているらしいので(これも限られた人だけだが)、本をジャンルごとにわけるなど、見つけるだけ色んな仕事をしている。おかげで最初にみたここの店よりも遥かに奇麗になった。

「なんか、見つかったか?」

エールさんがコーヒーを二つもって奥にやってきた。

ここにある本はできるだけたくさん見せてもらった。
まだまだ全てとはいえない程たくさんある本。
その中から、元の世界に帰る方法がのっていないか、仕事の合間を縫っていつも探している。
仕事中に読んだりする事もあるが、大してなにも言われない。

「微妙です」
「この前みてたイリネ地方のはどうだったんだ?」

二つあるほうの、一つ(黄色のマグカップ)を私に差し出し、彼は本を眺めながらいった。

「ダメでした。確かに別世界からやってきた少女の話しではあったんですが、私的に考えると、あれは別世界じゃなかったんじゃないかなって」
「ほう?」
「まぁ、色々考えて、ですけど」

積み上がった本を尻目に、私はコーヒーをすする。

この前見つけたイリネ地方の伝説の話しは、数年探してやっときたビンゴか、と思った。
パソコンも借り、本も全てよみ、自分なりに資料をつくってまとめたりした。でも、結果的には違った。

ような気がする。

真相なんてものは当の本人以外知る由もないが、私なりの考えでいうと、この話しは別世界の話しではなかった。

三年程見てきた中でとても近い話しだったから期待していたんだけれど。

まぁエールさんが言うには、私をここに送った人はおそらくかなりの犠牲を代償に行っているだろうと言っていたので、三年やそこらでは見つけるなんて事はないと思ってはいたが。




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