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俺たちはそのままエールとヨルに手を振り、エールの店を出た。
思わず情報だけではなくいい腕を持っている、いや、いい目を持っている子も手に入れることができたことにより、団長はとてもご機嫌だ。

イリネ地方の詳しい概要と、ミノール海の侵入経路の資料をぱらぱらと見る。
どこにも隙がない。本当に完璧な資料だ。これは本当にいい子を手に入れたな、エールは。と、団長を見て思った。








「ヨル」
「はい?」

クロロたちが帰り、本の整理をしているヨルに近寄る。
俺の店は前払いがルールだ。
なので、もうすでに口座には2億ジェニーが払われている。

ヨルの初仕事なのだからこの2億ジェニーはヨルのものだ。今までも、バイト代として払ってはいたのだが、こんなに大きい金を渡すのは初めてだった。

「おまえの通帳だ」
「え?」


俺たちと同様戸籍のないヨルのためにいろいろ偽造して、ヨルの口座をつくり(偽造は得意中の得意だ)その中にすでに2億ジェニーをいれといた。

「初仕事、オツカレさん。2億ジェニーいれといた」
「え!?」

おそるおそる俺から通帳を受け取り、そっとひらくヨル。
そこには0がいくつもならんでいることであろう。ヨルは真っ青な顔で(こんな顔は初めてみた)俺に怒鳴る。

「受け取れません!!」
「あ?」
「受け取れません!!」
「なんでだよ?」
「だってこんな高額な..!!」
「おまえの初仕事だ、おまえが受け取るのが当たり前だろうよ」
「でも…」

頑なに受け取ろうとしないヨルにしびれを切らし、俺は通帳を無理やりこいつの手にねじ入れる。

「おまえの仕事だ、この報酬は俺のじゃねーんだよ」

この話は終わりだ、そう表すように俺は背中を向けて自分の自室に向かう。
後ろでヨルがどういう顔をしているのかは分からないが、まぁおそらくは申し訳ない顔をしているのだろうそれを想像しながら、俺はあくびをこらえた。


もうそろそろ、あいつに念を教えなければいけないな、と、俺は密かに思った。



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