現れた少女の正体



普段と何ら変わらぬ朝、この喫茶ポアロで"安室透"として働くことになってから、毎日こうして開店前に店先の掃除をする。
軽く窓ガラスを拭いてから、ホウキを手に取る。常連


少女がおれを見つめている。いや、正しくはおれを含めたこのポアロと、2階の毛利探偵事務所を、か。視線が交わっているはずなのに、少女は驚きも視線を逸らそうともせず。
不思議そうに首を傾げて、再び歩き始めた。膝上のスカートが揺れている、見れば見るほどどこにでもいる少女だ。



「おはようございます」

安室透として、誰にでも好かれるような完璧な演技で。微笑みながら挨拶をすれば

「...どうも」

少女は挨拶を返してきた。しかし、早足に俺の前を通り過ぎていく。振り返ることもせずに忙しなく、細い足を動かして。














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