待ち人



何も無い宙を眺めながら、いつ帰ってくるかも分からない相手を想う。


「また何も言わずに…」


〇〇はソファに縮こまっていた。
部屋から出ない生活を、かれこれ2ヶ月。

今までで一番長いのではないか。


別に出迎えることが義務ではない。
ただ一度、おかえりと言った時にクロコダイルが身体を〇〇に預けるように寄りかかってきた。あの時の悲しい疲れた目をいつも思い出してしまう。
あの場に私は居なければいけない。あのクロコダイルが寄りかかる相手になりたい。私は、待っているのに。

そう思っているのは私だけなんだろう。私が待っていることなんて彼の頭の少しの面積も埋められていない、きっと。

彼は帰って来るのだろうか。もう二度と、帰ってこないのでは無いか。

こびりついて離れない考察を頭を振って跳ね除けた。


何日も夜更けまで起きて、居眠りで睡眠不足を補っていたので、疲労がピークに来ていた。
ソファで少し寝転がると、転がり落ちるようにして眠りに引き込まれて行った。久しぶりの睡眠に身体も喜んでいるようだった。



ガチャリとドアが呻く。主人の帰りを告げる音。

コツコツと革靴を鳴らしてソファに歩み寄るクロコダイル。寝顔を見て、ふう、と吐いた葉巻の煙が風で〇〇に流されていく。




「ク…ロコダイル?」

「何だ、起きたのか」

「ただいま、は?」

「あァ、今帰った、」

「おかえりなさい、クロコダイル」


にこりとした〇〇が煙も御構い無しに息を胸いっぱいに吸い込む。


「早死にするぞ」

「私が死ぬのは嫌?」

「おい、バカな事を言うんじゃねェ」

「私が生きるのはクロコダイルの為よ」


〇〇はクロコダイルのコートを脱がしながら、話し続ける。


「貴方はいつも何も言わずここを出る」

「いつ戻るとも告げないわ」

「だからいつか、貴方が私を捨てたのか、貴方が死んだのか、」

「…〇〇」

「分からないまま待ち続ける日が来るでしょう?」

「〇〇」

「私は、その時間が、怖いわ」

「……〇〇!」


クロコダイルは〇〇の手のコートをソファに投げると、身体を優しく引き寄せ抱き締めた。


「…待たせ過ぎたな」
「…」


「今日でこの生活は終わりだ」


冷たい義手が背中をなぞる。


「アラバスタへいくぞ、もう待たなくていい」


乾いた手が頬を撫でた。
ぽたり、ひとしずく、涙が落ちる。


「ごめんなさい、濡れてしまうわ、」
「クハハ、舐められたな。これくらい平気だ」



彼の乾いた手が、〇〇の落とす雫を一滴残らず吸い取った。

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