一緒に食べましょう!!
屯所に戻ると昼過ぎだった。
遅めの昼食を頂いていると女中のおばさんから話し掛けられた。
「あなたが名字さんね。」
「はい!これからお世話になります!!」
親子丼をいっぱいに詰めた口を押さえながら喋る。
おばさんは微笑ましそうにくすくすと笑った。
「口端にご飯粒ついてるわよ。」
「ホントだ!ありがとうございます!」
米粒を取り口元へ運ぶ。
本日も食堂のご飯は美味しかった。
思わず食べる手が速くなり、掻っ込むようにして食べる。
「ごちそうさまでした!!」
「はい、お粗末さまでした。貴方はどこの隊に所属することになったのかしら。」
「私はですね!とてもお強い方の元で働けることになりました!三番隊のォ……!」
ここで気づいた。隊長の名前を知らない事に。
あーだのうーだの悩んでるとおばさんは奥から草餅を二つ持ってきた。
「これを持って隊長の所へ行っておいで。」
「あ、これいいのですか?」
「ええ、いいわよ。今日のおやつにしようとしてた物だから。その代わり今日のあなた達のおやつはなしよ。」
「ありがとうございます!!早速隊長とお話に行って参ります!」
お皿を両手に持ち急いで食堂から出る。
このおやつと共に隊長の名前を聞いてなにを話そうか。そう考えるだけで軽くなった足は止まらなかった。
「失礼しまーす!」
タンッと障子戸を足で軽やかに開け放つ。
「隊長!おばさんからおやつ頂いてきました!一緒に食べましょう!!」
隊長はいたことはいたが、こちらを見ようとすらしない。
初対面の時のように無反応だ。
「隊長?」
隊長が向かう机の前に回り込んでもう一度呼びかける。
「隊長。」
寝ているのだろうか、そう思い隊長の顔を覗き込む。
しかし、目は開いていて隊長とバッチリ目があった。
見つめあっているような雰囲気が辛い。
隊長の顔は徐々に赤くなってきて、見ているこっちも照れてくる。
「そ、そういえば私、隊長のお名前存じ上げておりませんでした!お名前、お伺いしてもよろしいでしょうか…?」
なにか話題を切り出さねばと思い、聞きたかったことを言う。
隊長の顔が少し険しいく何かを我慢するような表情になった。顔も先ほどとは違い青い。
スッと隊長は立ち上がると部屋から出た。
「ど、どちらへ!?」
途中まで後ろについて行ったが、『厠』の文字が見え納得する。
「うんこかァ……。」
とりあえず、紙とペン持っていけば聞き出せるだろう。部屋に行ってノートとペンを持ち出した。
隊長の部屋に戻ると、隊長は戻ってきており先程のように座っていた。
名字は隊長の左斜め後ろに座りノートとペンを差し出した。
「隊長!お名前、お聞きしてもよろしいでしょうか!」
そう言うとノートとペンを取り書いてくれた。
[斉藤 終]
「さいとう…しゅう……!さん!」
書かれた字は斉藤の雰囲気のように落ち着いていて、力強くバランスもよかった。
名前を口に出すと、蕩けるように頬が緩むような感じがした。
斉藤は再度ノートを取るとこう書き足した。
[さいとう しまる]
「しまる、……しまるさん!さいとう、しまるたいちょう!終隊長!」
ルビを打ってくれたそのノートを持ち上げ何度も何度も斉藤の名前を呼ぶ。
その名前を呼ぶと胸のあたりがくすぐったくてあったかい。
斉藤もくすぐったいとばかりに、困った様に眉を下げていた。
「では斉藤隊長とお呼びしてもよろしいでしょうか!!」
斉藤は眉根を寄せて、何か言いたげな顔をした。
「私が隊長のお名前をお呼びするのは、よろしくないでしょうか?!」
目を少し伏せて残念そうに名字はため息混じりに言った。
斉藤はペンを取り何かを書く。
[そんなことはないですZ。]
「そうですか?でも、隊長。すこし迷惑そうでした。」
[そう見えましたか?この前の打ち合いを思い出していたのですZ。名字さんに勝てなかったから。]
困った顔をした斎藤に、明らかに嘘をつかれた。
ハッキリとした勝敗は付かなかったものの、最後まで立っていたのは斉藤だった。
誰がどう見ても彼の勝ちだった。
しかし、斉藤がさっきより困ったようにするので、今日は笑ってその嘘に乗ってあげることにした。
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