似合ってます?
朝礼が終わり目もバッチリ覚めたところで、斉藤の足の上から立ち上がる。
グッと伸びをして朝の空気を吸い込む。
うん!とってもムサい。
視界の端に斉藤の上着が見え、そちらに視線を向けると顔を赤らめ顔を逸らす斉藤がいた。
「どうしたんです?」
心配で覗き込むと俯かれてしまった。
後ろから咳払いをする声が聞こえ周りを見ると、隊士達の視線が名字に集まっていた。
斉藤はまた上着を私に被せた。
「うわ、何ですか?!」
「アンタ、自分の格好をよく見なせェ。」
沖田にニヤニヤと笑われて下に視線を向ける。
上着を少しずらすと、寝巻きの浴衣が大分はだけていて、とてもお見せできない状況だった。
「あら、いっけない!お目汚し大変失礼いたしましたー!」
てへっと効果音が付きそうな勢いで名字は、ペロリと舌を出して謝った。
喋り方や雰囲気のせいで幼く感じるが、体はもう大人で欲情を掻き立てるには申し分なかった。
隊士達のため息が揃う。
当の本人は少し照れた様に笑ってるだけだった。
「そういえば名字!朝一番に仕立て屋のおばさんが、隊服を持ってきてくれたぞ!」
ほら、と言って近藤から服が入っているであろう箱を渡された。
「わぁい!私!隊服着るの憧れてたんです!着替えてきまぁす!!!」
スパァンっと、障子戸を開け放ち一番に出ていく。
隊士達はその後ろ姿を生暖かい目で見守っていた。
部屋に戻って隊服を広げる。
黒い隊服は見るからに威圧的で、自分の心が引き締まる思いがした。
服を着て後は上着を着るだけ。
斉藤から貰ったそれを見るだけでにやけてしょうがなかった。
着たいけど、まだ見ていたい。
トントンと障子戸を叩くの音が聞こえた。
「どうぞ!」
入ってきたのは斉藤だった。
[着替え終わりましたか?髪を結ってあげますZ。]
幼げな雰囲気から分かるように名字は酷くズボラで不器用であった。
斉藤はそんな名字を放っておけず、まずは毎朝の朝礼へ連れていき、髪は自分が結ってやろうと思っていた。
今までならネガティブに考え、腹を下すのでそうやってやってやることはなかっただろうが、やってあげた後に名字は、ぱああっと効果音が付きそうなほど嬉しそうに礼を言うのだ。
その時の表情がたまらなく好きだった。
名字を上から下へと見た斉藤は、不思議そうにノートに書いた。
[上着は着ないのですか?もしかして、本当は嫌だったとか。]
シュンっと寂しげに名字を見る。
名字は慌てて否定した。
「いえ!違いますよ!!!ただ、見てるだけで満足しちゃって…。今着ちゃいますね!」
衣紋掛けから上着を取り袖を通す。
斉藤のように腰にベルトを付けると、背筋がシャンと伸びる感覚がする。
「へへ!どうです?!似合ってます?」
満面の笑顔で少し長い袖の端を手で持ちその場でくるりと回る。
そんなに同じものが着れて嬉しいのかと思うくらい、斉藤の隊服と姿見にうつる自分と見比べてだらしなく頬を緩ませている。
自分と同じものなのに、名字だと可愛らしくうつった。
[似合ってるですZ。]
その文を見た名字は笑顔をもっと明るくして、ねじり棒を持ってきた。
どうやら髪を結わせてもらえるようだ。
斉藤は微笑ましい気持ちになった。
今日は高い位置で一括りに髪を結った。
名字の御機嫌な雰囲気とぴったりだった。
程なくして二人は食堂へ向かった。
食堂へ着くと皆がこちらを見た。
「あれ?」
近藤が名字を見て声を上げた。
「なんで、一般隊士用の服じゃないんですかィ?」
沖田が皆の疑問を代弁するように言った。
「おばさんからお手紙入ってました!『斉藤隊長を見習って頑張ってね!』との事です!それと隊長から上着を頂いたのでそれに合わせて作っていただけたようです!」
「どういうこったァ!終ゥ!テメェ甘やかすなって言ったろ!!!」
「まァまァ、似合ってますか?」
土方を軽くあしらい、先程したようにその場で一回りする。
斉藤に結ってもらった髪が、名字の気持ちを表すようにピョンと揺れた。
「よく似合ってるぞ名字!」
「ありがとうございます!」
他の隊士達も「うんうん!」「頑張れよ!」と声をかけていた。
「認められねェ。」
土方だけ眉根を寄せ不機嫌にこぼしたが、喜ぶ名字を見て口元を緩ませた。
隊服を着た名字は、やっとこの組織にしっくりとくるような感じになっていたからだ。
斉藤と同じそれがやけに似合っていた。
「俺も大概かもな。」
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