ご相談ください!
そんなことを言われてるとはつゆ知らず、かぶき町の見廻りをする二人は、暖かな日差しを受けゆったりと歩いていた。
名字は楽しそうにまわりをキョロキョロと見渡しながら歩いていた。
時折鼻歌を歌いながら、笑顔で町の中を歩く。
町の人もそんな名字を見て、つられて彼女のように笑うのだ。
今日も江戸は平和なり。
試験の日名字は屯所の道まで迷っていたが、以前暮らしていたのはここかぶき町で町の人とも仲がいいようだ。
「あンら!名前ちゃん!本当にチンピラ警察の一員になっちゃったの?!」
「真選組ですよ!オジチャン!」
「オジチャンじゃないわよ!オネエサンよ!!!あのままウチの店の警備でもよかったのよォ?」
「最終的に真選組で働くことが、私にとっての願望を叶えうると思いましたので!申し訳ない!!!」
ちょくちょく町の人に声をかけられコミュニケーションをはかる名字は、人として憧れるものだと斉藤は話を聞きつつ思った。
「それで、後ろのアフロイケメンとはどういう関係?」
「斉藤隊長ですね!私の所属している隊の隊長です!!私より強くてお優しい方なのです!朝は起こしに来てくれたりしますし、今日も髪を結ってもらいました!」
「……。」
ほら、とオカマに背を向けて艶やかな髪を見せびらかす。
斉藤はここまで自分についての印象を語ってもらうのに慣れていなく、固まってしまい真顔で突っ立っていた。
「羨ましい限りねェ。こっちはアンタがいなくて寂しいっていうのに。」
「また遊びに行くのでその時は名一杯構ってください!!!」
「本当に元気ねアナタ。安心したわ。」
そう言って頭を撫でてもらう名字に、彼女だからこそできるのだとわかった。
警察官としてとても頼もしい。
我が部下ながらいい子が入ったと口布の下で微笑んだ。
「そういえば!甘味処の女亭主がアンタが来ないって心配してたわよ!行ってやんなさい!」
「あちゃー!わかりました!それではそちらにも寄っていきます!また何かありましたら真選組にご相談ください!」
「アンタには言っても彼処には頼らないわよ
。」
そう言って背中を叩かれた名字は笑って手を振りその場を後にした。
「隊長本当に申し訳ございません、話し込んでしまいました。」
[町の方と仲が良いのはいい事ですZ。そういえば甘味処に寄っていかれるのですよね、そこで休憩にしましょうか。]
「いいんですか?!やったー!!あそこのお団子美味しいんですよ!」
行きましょう!といって斉藤の手を引っ張る。
そんな名字を見て思わず、[楽しそうですね。]と書いてしまった。
きょとん、とした表情の名字は普段の幼さからもっと幼くなったような。
打ち合いの時とは別人の無垢な少女に見えて、背中の大太刀に違和感を感じる。
彼女には重たすぎるものだろう。
「私、隊長となら何処だって楽しく感じます!!何なら白洲に立たされても楽しいかもしれません。」
[なんてこと言うんですか。]
軽く彼女の頭を叩き、彼女の手の引くまま甘味処の女亭主歩を進ませた。
「おばちゃーーーん!!!名前だよー!!!」
「アンタ今まで何してたんだい?!いつも1日2回は食いに来るアンタが急にいなくなるもんだからァ……おやまあ、アンタコスプレかい?」
「違うよ!私!真選組に勤務することになったから!!」
「あらァ、アホの子かと思ってたけど、ここまでキテるとはねぇ。どれ、お医者さんとお話しましょうかねぇ?」
「ホントなの!ほら!警察手帳!!」
幕府特別武装警察とかかれたものを取り出す。
名字は少し顔を赤らめながら、ドヤ顔をした。
「本当に入隊しちまったのかね…。よぅ頑張ったわねぇ。」
「へへへ、今こうやって出して少し実感湧いた感じあるかも…。おばちゃん!苺大福とお茶!二つね!」
「はいはい、ちょっとお待ちよ。」
女亭主は奥へ入っていった。
「隊長!ここの苺大福はとっても美味しいんですよ!!」
[そうなんですか、私はあまり甘いものは食べないので楽しみですZ。]
「お餅も美味しんですけどね!おばちゃんが選んでる苺!毎回甘いんです幸せの味なんですよ!!お口に会うとよろしいのですが。」
足をパタパタさせて興奮したように喋る名字は、無邪気で愛らしい。
「はいよ、名前の大好きな苺大福だよ。」
コトリと、出された白い餅に包まれた苺。
中の苺が透けて大福がピンクに見えてとても癒される。
「私これ大好き!!!いただきまーす!!」
名字がパクリと大きな一口で齧り付いた。
ジュワリと苺の水分が溢れ、名字の唇を水々しくさせ熟れた赤さを残していく。
大変なところを見てしまった、斉藤は目を背けお茶を一口飲んだ。
「隊長も食べましょう!!」
そう促され口布を取る。
柔らかな大福を持ち上げ口に押し込む。
苺は確かに甘いけどさっぱりしてて、餡はもったりと餅の甘味と苺の甘味を調和させた。
確かに幸せの味かもしれない、頬が少し緩む。
「隊長、お綺麗な顔しているのですね…。隠しているの勿体ないです。」
ほうっと、斉藤を羨ましげ見る名字は、ポツリとこぼした。
ボッと顔に火がついたように赤くなる斉藤。
それを見ていた女亭主がクスクスと顔の皺を深めて笑っていた。
しばらく三人は会話を楽しみ、会計をした。
「じゃあね!おばちゃん!」
「しっかりおやり。」
「うん!頑張る!!行きましょうか隊長!」
くるりと夕陽に向かって歩き出す名字は少しさみしげに見えた。
「アンタ。」
斉藤は女亭主に呼ばれ振り返る。
「あの娘をよろしくね。いい子だから。」
「……。」
コクリとしっかり頷いて名字の後ろ姿を見守りながらついて行く。
女亭主はフーと鼻から息を出し店じまいを始めた。
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