隊長!!たくさんです!!!!
今日も今日とてやることがなく、三番隊は暇だった。
見廻りの当番も今日は当たっていないし、外は土砂降りの雨だった。
紫陽花の花が雨にうたれて項垂れていた。
斉藤の部屋には斉藤と名字が書類の作成、整理をしていた。
他の隊員も各々一応仕事に向かっているようだ。
「隊長…、暇ですぅ。」
バインダーをひき、斉藤の隣で名字は寝転がりながら書類を整理していた。
名字を慰めるようにポンポンと斉藤は頭を撫でる。
先程まで寝ていた名字の下の書類は、彼女の枕になっていたので紙がよれていた。
あとで差し替えておかなければ、斉藤は原本の所在を頭の中で探した。
名字が撫でる手に頭を押し付けてくる。
こういう時の彼女は、もっと撫でて欲しい時の行動だった。
以前にこういう行動した時、髪を梳かしながら撫でてやると、幸せそうに目を細めて受け入れていたことを思い出す。
トップのサイドにスカーフを蝶々結びにしてアレンジしたダウンスタイルの髪が、背中いっぱいに流れる。
その髪を斉藤は指に絡ませる。
ふわふわと柔らかな感覚が癖になる。
「隊長の手って、とっても落ち着きます。」
気持ちよさそうに蕩けたような表情をする。
声も夢心地のように浮ついていた。
この前の苺大福を食べた時もこんな感じだったな。
斉藤はチラリと時計に視線をやると、名字から手を離しノートを捲る。
名字が名残惜しそうに斉藤を見つめた。
[今日のおやつは最中だそうですZ。よかったら私の分も貰ってきてくれませんか?]
おやつと見ると名字は目を見開き嬉しそうに立ち上がった。
「最中!かしこまりました!名字!行って参ります!!!」
障子戸を勢いよく開け走って行った。
斉藤はお茶を用意しようと戸棚を開けた。
食堂へ行き女中のおばさんに最中をいただく。
「今日のおやつをください!!!」
「あら、名前ちゃん。今日は一段と嬉しそうね。」
すぐ用意するわ。というおばさんに元気よく返事をする。
「はい!お願いします!!今日は斉藤隊長も欲しいとのことでした!」
「珍しいわね、一緒に食べるの?」
「そのつもりです!!」
「だから嬉しそうなのね。」
くすくすと口元を抑えて笑うおばさんは、年上の女性美しさが出ていて見惚れる。
「へへ、そうです!隊長と一緒だといつも嬉しいんです!!」
「斉藤隊長と仲良くなれてるみたいでよかったわぁ。はい、これを持っていってね。」
お皿に二つの最中が乗っていた。
芳ばしい香りと餡子の落ち着いた甘い香りが、口内を涎でいっぱいにさせた。
口元が緩むのを感じながら、斉藤の元へ帰ろうと踵を返す。
「名字。」
「はい?何でしょうか?」
食堂を出ようとしたところで声をかけられ、振り向くとどこかの隊の隊士さんがいた。
「これやるよ。」
そう言うと最中を皿に移してくれた。
そうすると周りにいた他の隊士から「俺も俺も。」と皿に乗せられる。
「あ、ありがとうございます!!」
普段夢でしか見ないような量の最中が手元にあった。
キラキラと最中が光って見える。
余りの嬉しさにうへへっともらすと、他の隊士も顔をへにゃりとさせ笑った。
最中に気を使いながら斉藤の部屋まで走る。
「隊長!!たくさんです!!!!」
斉藤の机は綺麗に片付いており、お茶が用意してあった。
机に最中を置くと斉藤はお茶を渡しながら、すこし目を丸くして驚いた。
「あっ!お茶ありがとうございます!!隊長の入れるお茶苦すぎなくて好きです!」
湯飲みを手にし、一口飲む。
渋すぎるお茶は苦手な名字の為に斉藤は茶葉が入り込まないように、名字に渡すものは一番に淹れるようにしていた。
確か名字から渡される時のお茶はいつも渋みのないお茶だったような、そう思い淹れてやると当たっていたのだ。
「ささ!隊長、お召し上がりください!」
そう言うと斉藤は用意してあったのか、そのままノートを見せる。
[名字さんが食べていいですZ。]
ノートを見て斉藤を見る、それを数回繰り返すと少し笑われたような気がした。
はっきりとあってるとは言えないが斉藤の表情の違いがある、余り見ても違いは分からないがバリエーションは豊かであると思う。
名字はそれを最近知った。
多分笑ったことはあってるだろうな、そう思うとがっついている自分が恥ずかしくなり最中を一つ手に取り齧り付いた。
[美味しいですか?]
最中の味なんか分かるはずがなかったのに、コクリと頷いた。
今日の最中は甘ったるいだけだ。
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