二人で手分けすれば大丈夫ですよ!
朝礼で近藤が誠に遺憾だというように話している。
攘夷志士と騙る者が近辺で薬物の取引をしているとの内容だった。
攘夷志士はそこまでおちたのか。
侍の心とは何だったのか、寝起きの頭では何も考えられなくて斉藤の胸に頭を寄せ怠そうに続きを聞く。
「この事態は一刻も早く対処せねばならない。本日から各隊で手分けして探る。では一番隊はー…!」
[名字さん起きて、大切な話みたいですZ。]
斉藤は横抱きになった状態から足の上に座らせるように名字を動かし、ゆすり起こす。
パチパチと瞬きをする名字は一応意識はあるようだ。
「それからー、三番隊!港の倉庫街の方を頼む。今日は遠藤も森も上田も体調が悪く朝礼に出られないとのことだったから、斉藤伝えておいてやってくれ。」
「……。」
こくり。斉藤は頷く。
近藤はそれを確認した後話の続きを始めた。
[名字さん。今日の捜索は二人で行うことになると思いますZ。無理しず慎重に行いましょう。]
「ん。」
まだ眠気が抜けきらないのか、名字は煩わしそうに返事をした。
ポンポンと頭を撫でてやるとまた眠りについた。
隊服に着替え斉藤に髪を結ってもらう。
今日は毛先を軽く巻いたツインテールだった。
ふわふわとした長い髪が、うさぎの耳のように歩く度跳ねた。
二人は朝食を食べたあと、すぐに倉庫街へ向かった。
「でも、薬物の取引だなんて、攘夷志士も落ちるところまで落ちましたねぇ!」
[どこで聞いてるかわからないから、あまり大きな声を出すんじゃありませんZ。]
「はぁい。」
名字は唇を突き出して大人しくなった。
お昼を挟み倉庫街を一周したが特に怪しい人影もなかった。
「ここには何もないんでしょうか。」
[そうかもしれないですZ。一旦報告をしに戻りましょう。]
「あっ!でもまだ倉庫内のコンテナ!すべて見終わったわけじゃないですし、もう一度確認しましょう!!」
名案だと言わんばかりに笑顔で斉藤に提案する名字。
しかし斉藤は珍しく渋い顔をした。
[この時間からじゃ中途半端になりますZ。また明日見に行きましょう。]
「二人で手分けすれば大丈夫ですよ!私は1-Aの倉庫から見て回ります!隊長は最終の6-Mからよろしくお願い致します!」
それじゃあ!と言って名字は走り出す。
[一人では危険ですZ。]と書き殴られたノートを出すも一足、一筆遅かったようだ。
斉藤は諦めて6-Mの倉庫へ足を向けた。
一方名字は一つ一つコンテナを探っていた。しかしその中にはいつかのゴミだったり、普通に売り物だったりと早くも諦めたい気持ちでいっぱいになった。
とぼとぼ歩いていると、心ここにあらずと言わんばかりに口や目を開けて壁にもたれ掛かる女性を見つけた。
「大丈夫ですかー?」
明らかに異常な女性に話しかけると、いきなりキッと睨まれた。
「うるせェなァ!!!」
こちらを怒鳴りつけるとビクッとして地面に力なくへたりこんだ。
「あっ、あの大丈夫です?!病院行きます?」
「いいっ…てんの。それより、アンタ、サツかい?」
「はい!私は真選組の名字です!!」
「今回は薬のことだろ?」
「そうです。……ご存知のようですね。」
「教えてやるからこの場は見逃してくれないかい?無理やり使われたんだよ。」
「……、ちゃんと病院に行ってくださいね。」
「あァ、もう少ししたら効果が薄まるからすぐ行くさ。」
そうも見えないような気もするが、女性は息絶えだえと言ったように喋り出す。
「3-Aの一番奥右側のコンテナだ。バイヤーを見たらアンタらは驚くだろうよ。」
「それはどういう……。」
「あれ、アンタ女かい。すまないね、今は目も耳もすこし馬鹿になってて分からなかったよ。悪いことはいわねェやめときな。アンタはこの事を上司に報告してすぐ帰るんだ。ここが奴らのアジトだから、捕まったらただじゃ済まないよ。」
「しかし、私も真選組の端くれ、行って参ります。」
「やめとくれ、女じゃむ…、ッ!!」
一瞬苦しそうに息の詰まった女性はその場に倒れた。
とりあえずここを離れるわけに行かなくなった、局長と各隊長宛に女性の保護と場所のメールを送ろうと作成する。
「3-Aの…。」
「お嬢!」
後ろから聞こえた声にハッとして振り向く。
その名前で呼ぶやつはアイツの仲間だけだ。
振り向くと上田が居た。
「何で上田さんがその……!!!」
後から腕を掴まれグサリと針のようなものを刺される。
乱暴に刺されたその痛みにクラりと意識がとびかけるが、寸での所で腕にまとわりついた男を蹴り飛ばす。
カランッと落ちる注射器を踏み潰し男達を見る。
お嬢、ああ、どこかで見た顔だと思った。
「オメェらの顔思い出したぞ…、森ィイイ!キサマ何しがった!!!」
不敵に笑う三人組に、名字は若干の焦りを感じながらも吠えた。
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