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「騒がしいのはてめぇの方だろうが!!!」
そう言われ煙草臭い男に中に通され道場に至る。名字は今土下座をしていた。
「お願いします。」
実技試験のためにいる大勢の隊士に吸収されることなく、その声は一人でも頷いてくれと言わんばかりに響き渡った。隊士たちは皆一様に難しい顔をして縋る声をはねのけた。
「てめぇは女だろうが。」
「存じ上げております。」
怪訝なそうな声色で煙草の男が言うのを、名字は間髪を容れずに言葉を切り伏せた。
「腕は其処らの者よりたつと思っております。」
名字の言葉は凛としていて、研ぎ澄まされた刃のような静けさと荒々しさを感じさせた。
隊士たちはチリッと胸が熱くなるような感覚がし、目の前の女を無意識に畏れさせた。
「今までやってきた、えいりあんはんたーみてぇな遊びとは……、」
ペラリと紙の音がする。男の声が僅かに詰まったようだった。
「ちげぇんだ。」
しかし、それは気のせいだったようだ。
今までより言いようのない恐ろしい雰囲気に名字は逃げ出したくなった。
しかし、それではここでやりたいことは遂げられない。
押し潰されるような言霊に対抗して顔を上げた。
その場にいるみんなの顔が煙草の男と同じに見えた。
怖い、下唇を噛みしめた。
「この場にいる全員から一本、一本とれたら入隊させてください。」
ぞくり。何かを抜かれるような感覚が真選組に襲い掛かる。
タラリと口端から流れ落ちていく恐怖とともに、名字の顔は侍となった。
剣に生き、剣に死ぬそんな兵が揃う組織。皆の目の色が変わった。
新雪のやわらかな雪の冷たさから一変、突き刺さんとす氷塊の冷たい剣が名字を昂奮させた。
「三十人抜きだ。」
今まで黙っていたゴリラが口を開いた。何で人語を喋れるのだろうか、天人なのか。
「近藤さん!」
煙草の男は灰をポロリと落としながら、焦ったように声を荒げた。
そんな煙草の男を視線で制し近藤と呼ばれたゴリラは続けた。
「では、今から始める。名字さん君は一本もとられてはいけない。質問は?」
「無いです。」
「よし、誰か相手をしてやれ!」
ニヤリと笑った隊士が一人出てきた。
近くにいた隊士に竹刀を受け取ると、他の隊士たちは横に移動した。
着物の袖を紐でたくし上げ、相手の男の前に立った。
胸が熱くなる、腕が竹刀と馴染む感覚がした。
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