私、こんなにも大切にされていたんですね。
「隊長。」
二人の瞳の色は雨が降り出す前の曇天が、ドロドロと広がっていた。
ポツリポツリと雨が降り出すように、二人の沈黙がとても冷たい。
斉藤が引き出しからノートとペンを出すと、何かを書き始めた。
[これ、全部見ましたか。]
これとは、日記帳の事だろう。やはり勝手に読んだのはまずかったようだ。
「勝手に拝見して、申し訳ございません。…最近のことをちらっと、拝読いたしました。」
語尾に力がなくなっていき、どんどん小さくなっていく。打ち付ける罪悪感が、名字の声を小さくしていった。バラバラと頭の中に響く焦りが瞳を暗くしていく。
名字は斉藤を見ていられなくなり、視線をそろりと逸らした。
今度こそ本当に嫌われたかもしれない。
ピシャリと絶望が光って落ちた。
最低な事をした、積もり積もった悔悟が涙をじわりじわりと押し出していく。
[気持ち悪かったですよね。申し訳なかったZ。]
「気持ち悪いって何のことですか?」
スッと目の前に出される斉藤の言葉、しかし名字には何のことを指してるのか分からなかった。
斉藤をチラリと覗うと、ノートにペンをうろつかせ迷いながら書いていた。
[私の日記に名字さんのことを綴ったことですZ。]
いつもの字より細く揺れていていた。
言葉に詰まるように、字も書き直したのか、ぐちゃぐちゃに塗り潰されている箇所が多々あった。
目の前の斉藤も、そんな字のようにふにゃふにゃとしていて先程まで感じていた冷たい雰囲気は無かった。
何だ、隊長は起こってる訳でも、嫌いになった訳でもなく、ただただ、私の事を心配してくれて、責任を感じてくれてそれで。
頭は雲が晴れていくように光芒が差し込んでくる。
名字の表情も太陽が見えるように明るく暖かくなって、いつもの様に晴れやかに笑った。
「全然!!!寧ろ嬉しかったです!!!隊長にここまで見てて頂けてたなんて!」
名字は暖かい陽だまりのように、ふわりと頬に紅をのせて笑いかける。
名字の中に還ってしまいたい、斉藤はそう思った。
「……私、こんなにも大切にされてたんですね。」
そう言うと恥ずかしそうに名字は歯を見せて、いつもの少女のようにはにかんでみせた。
斉藤が突然名字の頭を強く掻き混ぜる。
いつもより乱暴に、そして自分を落ち着かせるように撫でる斉藤の耳が髪と同じように赤味を帯びていた気がする。
見えたのが一瞬だったから、気のせいかもしれない。
けれど斉藤の手がいつもより熱いのが何よりも証拠だろう。名字は顔が上げられなくなり、大人しく頭を撫で続けられた。
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