はい!おかげさまで!
松平の奢りでキャバクラの『すまいる』に来ていた。
今日は羽振りが良いらしい。真選組全員でご馳走になっていた。
隊士達は皆もうでろんでろんに酔っ払っていた。お妙と言う女を追いまわす近藤は見ていられない。また顔に蹴りを入れられている。
唯一の女隊士名字は先程から松平の酌をするばかりで、全然飲めなく少し不機嫌だった。
空いた松平のグラスに酒を注ぐ。
「ありがとよ。…もうウチには慣れたか。」
「はい!おかげさまで!」
ニコリと笑みを浮かべて酒瓶を静かに置く。以前オジチャ、オネエサンのお店で警備として働く傍らお手伝いした事もあったのでこういう所は何となくわかる。
ゴクリと一思いに呑まれた酒を見て、まだ飲むのかと追加で注いだ。
チラリと斉藤の方を見やると女の子に囲まれて飲んでいた。話はできてないみたいだが、ベッタリとくっついていて男女の甘い雰囲気に機嫌は急降下する。
何だか面白くない。
グラスを引っ掴みその辺にあった酒をドボドボと入れた。松平のようにグイッと飲み干すと喉がカッと熱くなって、胃が爛れるように蠢いた。苦いけど甘い香り、多分バーボンだろう。嫌いじゃない。
「名字!ストレートで飲むったァ、お前結構イけるクチか?」
「お酒は好きですので。」
本来ウィスキーは一気飲みするにはあまりよろしくなく、確認せず飲んだので頭がふらりとすぐに酔いが回った。
豪快に笑う松平は名字に二杯目を勧められたので、仕方なしに注いで飲む。
バーボンはハニーとかでも度数は35%はある。ストレートで呑むのは余程のウィスキー大好きさんか、呑んべぇさんである。普通はロックやハーフロック、ハイボールにして少しずつ飲んだ方が美味しい。
先程勢いよく飲んだ手前、チビチビと飲むことなんてできなかった。喉の焼け爛れる感覚、むわりとくる酒の臭いで腹の中が熱くグルグルと回り出したようだ。
気持ち悪い。
聞き取りにくくなった耳に、黄色い悲鳴が劈いた。何だが苛ついて視界の端に映すと、斉藤と女の子が抱き合っているのが見えた。
いつもはあの位置が自分の場所なのに。
斉藤は自分が抱きついたとしてもあの様に焦ってくれないし、むしろ頭を撫でられて子供のように扱うのだ。
一番近くにいるのは自分なのに、どうしてあの娘みたいに女として見てくれないのだろうか。
何を考えていたんだと我に返ると、頭に鈍痛が走る。喉にせり上がってきたものが辛い。厠へ行こう。
松平に一声かけてふらりと立ち上がった。
厠へ入る前に斉藤をもう一度見るも、斉藤は女の子の方に必死だった。
誰にも気づかれないようにパタリと扉を静かに閉めた。
- 26 -
*前
次#