隊長、痛いです。
目が覚めると昼過ぎだった。
帰って水すら飲まずに寝たため、喉の渇きと若干の頭痛と吐き気がする。完璧な二日酔いだ。顔もモッタリと腫れており熱を持っていた。鉛のような身体をのろのろと起こし、汗でベタベタになった身体を洗いに浴室へ行く。
シャワーを出すと冷えた水が全身に叩きつけた。あまりの冷たさに驚いたが、身体の熱をとってくれているようで心地よかった。
風呂から戻るとまた布団に倒れる。
クシャリと紙の音がして、音のした方をペタペタと探る。手にカサリと紙の感触。
グッと顔だけ上げて紙を目の前へ持っていく。
[今日は休んでいて大丈夫ですZ。]
いつまで経っても、起きて仕事に来ない自分に呆れたのだろう。斉藤から休みをいただいてしまった。重いため息をつくも、身体から重さは消えない。自己管理ができないばかりか、斉藤にまで迷惑をかけてしまった。
昨日の土方の言った通り、自分はまだ子供だったようだ。甘えてばかりの。
目頭にカッと熱が集まる。
鼻の奥がツーンと痛み、頭は霧がかかったように機能しなくなる。
息をする度肺に水が入っていくように、涙に溺れる。
「……ッ!…!」
声を殺そうと藻掻いた。涙を拭っていた手を喉に当てて、そのまま潰す。それでも漏れでる声は、枕に顔を当てて塞いだ。
意識が朦朧とする。
このまま、このまま消えてしまえたら。
斉藤に迷惑をかけることもない。
一人で見廻りもできない隊士へ気をかける時間も減る。斉藤の重荷でしかない自分は消えてしまえれば。暗い深淵に沈みこんだように、どうでも良くなった。
何も見えない、何も聞こえない、何も考えられない。
急に肩に衝撃が走り、仰向けにされる。
焦ったような斉藤が目に入った。
喉に当てた手を普段感じたことのない強さで、取り払われ両手首を押さえつけられる。
斉藤の顔は酷く悲しそうで、辛そうだった。
名字の心をあらわしたようなその表情に固まる。斉藤は片手を離し目尻を優しく拭った。
[辛いですか。]
何故か斉藤の方が今は泣きそうだった。
[私では力になれませんか。]
右手首をはりつける斉藤の手に力が入る。
自分の涙で濡れる手でペンを持つ斉藤。目が痛々しいほど悲しみで溢れている。
目を合わせていると自分の胸まで痛くなる。
「隊長、痛いです。」
力なく言葉が床にゴトリと落ちる。
名字から手を離した斉藤はノートを手に取った。
[すみません、私なんかが烏滸がましいですよね。腕大丈夫ですか。]
先程よりも荒々しく書き殴られたその字は、憂いを帯びていた。諦めたようなカラカラの上部だけの言葉に見えた。いつもより勢いがいい割に、線が細々として。
沈黙が喉を締め、言葉も出なくなった。
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