推して参る!!!
蝉も鳴き止み、太陽は早く沈むようになった。朝は大分冷えて斉藤の体温が有難くなってきた。
「今日は入隊したいという希望があったため、試験を行う!今から言う者は打ち合いの試験の相手をやってもらう!朝礼の後残るように……。」
隊長は強いし呼ばれるかもしれない。
チラリと斉藤を盗み見ると、真剣に聞いていた。そのまま名字は微睡みに落ちていこうとした。
「名字!」
「うァ、は、ハイ!」
突然呼ばれた名前に寝ぼけながら答えると、斉藤は小さく笑っていた。
「以上だ!本日の朝礼はこれにて終わりだ、今日もよろしく頼むぞ、解散!」
「よろしくお願いしまァす!」
呼ばれなかった隊士達はのそのそと食堂の方へ行った。名字は斉藤から上着を借りて上に羽織る。
「隊長!」
斉藤は部屋から出ようとしている所を呼び止められた。
[朝食は待っているから、話を聞いておいで。]
「そうじゃなくて、…何で隊長は呼ばれなかったのですか?」
斉藤は首をかしげた。
「だって隊長強いじゃないですか!!私が呼ばれて隊長が呼ばれないなんておかしいです!!!」
「隊長格のヤツは選ばれねェよ、強すぎるからな。」
土方が面倒くさそうに答えた。
「なるほど…!あ、副官はいいんですか?」
「基本は選ばねェが、オメェは仮だからな。」
「仮でも副官してますよぅ。」
「分かってる、強さは副官クラス。だが、どう足掻いてもオメェは女だ。」
その言葉にイラッとして言い返そうと思ったが、土方は小さい声ですまねェなと言うもんだから黙った。慰めるように頭をポンと叩かれた。
「へへ!でも私強いってことですよね!」
「…調子のんな、オラ!始めるぞ!!」
そう土方が言うと試験の連絡事項を話し始めた。
防具に着替え竹刀と面を持つ。
道場の方ではもう始まっているのか、派手な音が聞こえる。何で竹刀どうしの打ち合いに、壁が崩れる音がするのだろう。
もうすぐ自分の番だし行くかと思ったところ、部屋を出ると斉藤がいた。
「隊長!!見ててくださいねー!!」
そう言うと斉藤は心配そうにノートを見せた。
[試験だからといってあまり無理はしないでくださいね。相手は相当な手練だと聞きましたZ。]
「ふふ!大丈夫ですよー!楽しみですね!!」
[あの、名字さん、無理は。]
そう話しながら道場につくと、物凄い音で隊士が壁へ飛ばされていた。
「一本!!!」
壁から崩れ落ちる隊士は苦しそうに救護室へ運ばれていった。
「局長。名字、参りました。」
「おお!名字来たか!お前で最後だ、存分に暴れてこい!!」
「御意!斉藤隊長!!名字!行ってまいります!!」
[いってらっしゃい。]
面を被り礼をして相手の前へ出た。
「三番隊副官!名字名前!推して参る!!!」
ビリビリと震える空気に道場の壁はパラパラと土埃を落とす。名字の竹刀に畏怖の念を感じさせる牙を向いた猛犬の影がドロリと見えた。
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