ないよ、そんな事。
名字の顔をはっきり見た斉藤は、怒りに顔をそめた。血走る目が怖い。
これは、戦う時とは違う目。
憎しみと怒りと、ぐちゃぐちゃな汚い目。
足が震え出す。
こわい、こんな斉藤は自分は知らない。
「そのへんにしとけよ。警察だかなんだか知らないが、坂田家には坂田家の法律ってもんがある。」
斉藤の肩に銀時の木刀が添えられる。そのドロドロとした斉藤の瞳は銀時へ向く。
「これ以上人ん家に汚ぇ縮れ毛を落とすなら、パイ〇ンじゃすまねぇぜ。大将。」
そう言われると斉藤は手を刀に添える様に腰に回す。銀時も警戒していた。
一触即発の雰囲気。
「隊長…。」
久々に呼ぶというのに何と情けない声を出すのか。酷く掠れてノイズのようだった。
「お手洗いですか?駄目ですよ、ちゃんと玄関から入ってお願いしないと。台所の奥の扉入って左側の扉です。厠は。」
そう言うと斉藤は中に入って用を済ませた。
ペコリと頭を下げて帰っていく斉藤に、万事屋達は唖然として見ていた。
「何しにきたのあの人ォォォ!!」
「無言だからよく解らなかったけど、厠借りにきただけみたいアル。」
「どんだけまぎらわしい厠の借り方ァァァ!?」
「極度の無口ってのは本当らしいな。探し回ってたのは、ヅラじゃなく便所だったのか。」
「どんだけもれる寸前だったんだよ、散々暴れて無言でウンコ置き去っていくってどんな警察!?」
「おい、眼鏡。隊長の悪口言うんじゃねぇよ?本当に眼鏡掛け器にしてやろうか?」
「てか名字さん、よく分かりましたね。斉藤さんが厠借りに来たって。」
「無視してんじゃねぇぞ、こっちが傷心中だからって殺らねェと思ってんのか。…まァ、何か用事があったのかもしれないけど、隊長お腹緩いみたいだから、そうかなって。初対面とかうんこの臭いしてたし。」
「いや、置いて言ったのはウンコの残り香だけじゃないみたいアル。」
神楽が厠から一通の封筒を見つけ、銀時に手渡した。
「オ…オイ、ヅラこれって…。」
「……アレ。」
「ヅラは…!?」
「さっき、あの騒ぎに乗じて帰っていったよ。」
そう言うと銀時は納得がいかなそうに顔を歪め、封筒の中身を確認した。
その中には手紙が入っていた。その手紙を銀時が読み上げる。
内容は、無口さ故に中々周りに馴染めないのにも関わらず、柱阿腐郎は臆せず構ってくる。そんな、柱と友達になりたいので助言が欲しいとのことだった。
斉藤はやはり、自分より桂とやっていきたいと思っている。きっと桂の方が頼りになるし、何より強いから。
「何てこったァ!!この人、桂さん粛清する所か、敵と気づかずに友達になろうとしてますよ!!」
「ようやく見つけた友達になれそうな奴が、よりによって敵とは…、アフ狼かわいそうアル。でも、教えてやった方がいいアル。桂がよからぬ事を考えて潜入してるって。」
「で…でもそれじゃあ、桂さんが粛清さへちゃうよ!!」
「でも放っておいたら、逆にアフ狼がヅラに消されるアル。」
「銀さん、どうするんですか……。」
「んー面倒臭ェ事になっちまったな。」
あくまでも万事屋は依頼料をもらった以上、和平というかたちにするべく動くつもりらしい。これ以上、斉藤と桂が仲良くなるための話を聞いているのは辛い。
「銀時、私は帰る。当分甘味処にいるからよろしくな。」
「おう、何かあったらいつでもこい。」
「ないよ、そんな事。」
外のに出ると、風は今までの温もりを消し去るように冷たく、太陽も雲で隠れた。
名字が帰ったあと銀時は、金をしまおうと、もう一度数え直した。
その中に一枚金でもなんでもない、ただの紙が二枚入っていた。
「お?…手紙か?」
三つ折りにされた中を開く。
「追伸、部下が私の無口さと横暴さが原因で、長期休暇を取ってしまいましたZ。いつもはそのような素振りさえ見せないのに、私の上司には辛い時頼るのですZ。私は彼女に嫌われているのでしょうか。彼女は私より上司の方が頼りがいがあるというのでしょうか。彼女がいないと、お腹が痛くてしかたがないです。彼女はとても強く、頼りになる部下なのです。職場復帰してくれるにはどうしたらよいのでしょうか。あと、二枚目を彼女に渡していただけないでしょうか。―ってアフロの奴。」
その手紙だけ別の引出しの奥にしまいこんだ。
「あんなに不安にさせられる男には、俺たちの妹は任せられねェな。」
銀時はふらふらと甘い匂いをたどって歩いっていった。
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