この命にかえても殺させはしない
「いらっしゃいませ!!」
銀時から受け取った、斉藤からの手紙は未だに見ていない。
あれから一月が経った。名字はまだ真選組に戻れないでいた。これ以上休み続けると色々な人に迷惑をかける事になる。
辞表は書いて、私の部屋の机にいつも置いてあった。
何度か出しに行こうとしたが無理だった。
私はアイツを捕まえるという願いが邪魔をして、屯所の周りを彷徨くとそのまま帰った。
おばちゃんには感謝している。
急に帰ってきた私を当然のように迎え、仕事もくれた。
町の人もいつも気にかけてくれているのが、よくわかる。
そういうのは本当は私の仕事なんだけどなと言うと、娘を心配しない親がいるかと皆に笑われた。
おばちゃんの手伝いをして、あったかいご飯にお風呂にお布団、そして休みの日に町をブラブラしてお喋りをするのだ。
元から私はこのような町娘に憧れていた。
毎日がそれなりに楽しかった。だけど、足りないものがあるような気がした。
「名字さん!!!」
新八が店に駆け込んで大声で自分を呼んだ。
「うるせェ眼鏡だな。(いらっしゃい眼鏡。)」
「逆ゥー!それ心の声が表に出ちゃってるよォォォ!!」
「あら、ごめんなさいね!」
「それより名字さん!!斉藤さんが!!!」
新八は私の謝罪を無視し、斉藤の名を何か悪いことがあったように叫ぶ。
何も無い、何も無い。
落ち着け。
「……隊長がいかがなさったの?」
新八の声は震える声で叫ぶ。
「斉藤さんが粛清されるかもしれないんです!!」
ドクリと心臓が嫌な音を立てる。脂汗がブワリと流れ、頭がガンガンと警報を鳴らす。
「名字さん?」
「いつ?」
「え?」
「いつだって聞ィてんだろ?!」
店先で怒鳴ると町の人の視線が突き刺さる。
「明日です…。」
新八が呆気に取られ言葉を絞り出す。
「そうか。」
目を閉じて店の中に戻っていく名字。
「そうかって名字さん!斉藤の事は…!!」
「必ず助ける、この命にかえて殺させはしない。」
ギラリと鋭く光る瞳に新八は恐れ慄いた。
いつもの銀時に対する悪餓鬼のような感じでも、仕事中の彼女とも全く違う。何かを守りたいと強く願うその面構え、そう、それはいつか見た侍の表情そのものだった。
新八が気づいた頃には名字は隊服に着替え、店をあとにしていた。
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