Z以外。
斉藤は名字の事が気が気でなかった。
まさか、鬼兵隊の浪士だったとは。
普段から正体を明かさないように、桂にバラされないように過ごすのはとても大変だっただろう。きっと、彼女は自分が見てきたあれ以上の力を秘めている。
名字は桂を師匠と呼んでいた。
狂乱の貴公子と呼ばれる桂から教わっていたのだ、あの腕前は納得できる。
前方に長い黒髪が揺れるのを見た。
見付けた。
斉藤は桂へ飛びかかる。
激しい唐竹に瓦が割れ飛び散る。
刀に風が纏い、土煙を上げながらお互いに斬りあう。
斉藤は勢いよく刺突するも、桂は笑みを浮かべたまま防ぐ。
剣撃の音一つ一つが、強く澄んで響く。
堀に出るとお互いは最後だと言わんばかりに、相手の攻撃をものともせず飛び込んだ。
その一撃は凛と轟いた。
沈黙の中、斉藤の足から血が吹き出た。
「フン、その足ではもう俺は追えまい。」
桂がそうせせら笑いながら、胸元から爆破スイッチを取り出すと真っ二つに割れた。
「だが、これでは俺の計画もご破算だ。また…引き分けか。」
プルルと斉藤の携帯が鳴る。
「オイ終、どうやら桂による爆弾起爆は阻止できたようだな。だが、まだだ。一つだけ特大の時限爆弾がまだ動いている。AからZまでの無数の配線があって、どれを切っていいか解らねェ。なんとか桂をつかまえてききだせ。」
「Z以外の配線全てを切れ。…フン「Z」を斬るのはこの俺の役目だ。このまま引き分けで終わらせはせんぞ。斉藤終…、お前というZは、俺がこの手で必ず斬る。」
桂は斉藤に視線を寄越すと、サッと前を向いた。
「…あと、任せたくはないが名前の事を頼む。あの愚妹は戦争や鬼兵隊に参加していたのは事実だが、アイツは兄に引っ張られて行ったようなもの。本当は人の殺生などできない性分だ。俺からアイツを追い詰めるような状況にしたのに勝手だが、名前を助けてやってくれ。本当は連れて帰るつもりだったのだ。だが、貴様といる名前は、俺といるより人らしかった。だが、連れていくのを諦めたわけじゃない!…だから、俺がお前を斬るそれまでは、精々名前の世話とアフロの手入れを怠るな!さらばだ!!」
「……。」
名字の兄の存在。
彼女にとって刀を扱うというのは、どれ程苦しいだろうか。彼女は生きるために剣を取らざるを得なかったのだろう。たまに出る荒々しい言葉遣いは、そういった過去のせいなのだろうか。しかし、彼女は抜刀許可が下りないと刀を抜かない。また、刀が必要な状況でも、峰打ちか体術に拘る。
「オイ終、時間がねェ早くしろ!AからZどれを切ればいい。」
「ちょっと!土方さん!!隊長は喋れないんだから、お借りしますね!」
「あ、テメェ!」
ガタガタと揺れる音が聞こえ、名字の声が近くではっきり聞こえる。
「あ!隊長、今すぐメールください!蔵が爆発しちゃいます!」
「Z以外。」
「Z以外?Z以外ですね?!!…た、隊長喋ったァアア!!!」
「よし、Z以外を斬れ!!って、終喋ったのか?!」
「は、はい!!」
「かわれ!オイ、終どういう事だ!!」
「ああ、ちょっ。」
プツ…プープー。
揉み合いになったのか、激しく物音がしたあと通話が切れた。
どこからも爆発音は聞こえない、きっと大丈夫だろう。彼女とは極力喋るという約束をした、あまりしっかり話せなかったがこれから慣れていけるはず。それよりも早く戻って彼女の弁解をしなければ。
斉藤は堀を駆け上がると、日が沈む倍の速度で屯所へ戻った。
- 44 -
*前
次#