昔話なので長くなるのですが。
まさか、一日の中で二度もこういう事を体験する日が来るとは思わなかった。
あの電話の後、土方には恨み言を散々言われた。
「では、これより名字名前の処断について始める。まず、名字。お前は鬼兵隊に所属していたのは間違いないな。」
「はい、間違いありません。攘夷戦争にも参加していました。」
近藤の問いに詰まることなく答えると、隊士達はざわめいた。逆に名字の表情は落ち着いているように見えた。
「お前がここに入隊した本当の理由は?」
土方が鋭い眼光で睨みつける。
「兄を止める為に利用すべく潜入いたしました。」
「兄ィ?」
「はい、兄の高杉晋助です。」
ピシリと空気が固まる、まるで一時停止ボタンを押したように。
「た、高杉の妹ォォォ!?」
皆一様に声を揃えて高らかに叫ぶ。
「はい、関係的には。もう絶縁しましたがね。」
「ちょっと俺、この話ついていけない。」
「確にこの珍しい髪の色は同じだよな。似てないのは目元と目の色か。」
「雰囲気もじゃないか?」
「いや、刀を持った時の雰囲気はすごいぞ。」
ざわめく隊士を土方は咳払いをして静めた。
「ゴホン…、で?何でまた片棒担いでた兄貴を捕まえようとする気になった。」
「昔話なので長くなるのですが。」
「構わねぇよ。」
「それでは。
私、高杉名前は晋助の妹として生まれます。私は兄と一緒の私塾に通って、勉学剣術に励んでおりました。
しかし、兄はその通っていた塾の門下生、父と色々あって、兄についていた私も勘当されました。
兄連れられるまま寺子屋へ行ったものの、そこの先生が捕縛されました。兄は先生を取り戻すため戦争に行きました。私も生きていくのに兄と離れるわけにいかず、兄の率いる鬼兵隊に参加しました。ですが、先生は処刑されてしまいました。
それから兄も、おかしくなっていきました。廃刀令も施行され、私達は敗れました。その時の鬼兵隊は殆ど処刑されました。
先生を殺した世界を憎む兄が、鬼兵隊を再結成し始めた頃です。危うげな兄の目はとんでもない事をやらかすに違いないと思っておりましたが、過剰になっていくやり方に私は兄を止めることも殺すこともできずに、鬼兵隊から逃げ出しました。
兄は反逆者として私を殺しにかかりましたが、何とか逃げることができました。そんな時助けてくれたのが甘味処の亭主の名字女将でした。その後数年間は普通の町娘として過ごしておりました。
そんな折、鬼兵隊の噂がまたあちらこちらで聞くようになりました。私、これ以上兄を好きにさせておくことはできません。」
隊士達は皆一様に黙って俯いていた。
やはり、他人に理解してもらうなどというのは無理な話。
でもここで私は死ぬわけにはいかない。
「お願いです!兄を捕まえるまでここにいさせて下さい!!その後は……どうとでもして頂いて構いません!」
震える名字の声は屯所を越して外まで響いた。
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