まだ生きたい!!
「お願いします!!!」
名字は額を砂利に擦り付け懇願した。
小石が突き刺さり皮膚を抉る、しかし、より強く頭を下げると、段々痛みは感じなくなった。太陽が沈み、月が登るまで沈黙は続いた。
門の方から小競り合うような音と、何かを言い争うような声が聞こえる。
「局長ッ!!」
門番をしていた隊士が叫ぶので顔を上げてしまった。その隊士の顔には焦燥が浮かぶ。
「大変です!!民間人が攻め入ってきました!!」
「何だと!?」
「何でこんな時に…。」
近藤は怪訝そうに顔を歪め、土方は苛立ちを隠すことなく零した。
「名前ー!?」
「ちょっと!アンタどきなさいよ!!」
「お前ら!名前ちゃんに何もしてないだろうね!!」
声のする方へ向くと、町の人たちが手に物騒なものを持って行く手を阻む隊士達を乗り越えようとしている。
「何で…。」
この事は誰にも知られていない、今日決まって今日執り行われる裁判なのだから。
名字は目を丸くして言った。
突然土煙が上がり隊士達は吹っ飛ぶ。
「妹が殺されそうになってんのに黙ってるわけにいかねェだろ。」
「そうネ!名前は私の姉貴!勝手に死んでもらったら困るネ!団子とか!饅頭とか!」
「いや、神楽ちゃん心配する所違うからね?…でも、名字さんの明るい笑顔、なくなるとこの町は困るから!」
煙の中から万事屋が現れる。
「銀時、神楽ちゃん、新八くん。」
「なるほどォ、貴様ら聞いてやがったのか。」
土方が万事屋を鋭く睨む。
「娘が殺されそうなってんだ!黙ってはい、そうですか。なんて言えるか!!!」
「アンタがいなくなったら、誰が私の店に来るんだい?!オカマばっかの店よ?来るのもジジイよ!?地獄じゃない!」
「名前ちゃんを殺すなら俺を殺せ!!娘に手ェ出すんじゃねェよ!!」
毎日代わる代わる名字の様子を見に来ていた町の人たちが、武器を握りしめ睨み返した。
「名前…。アンタを送り出したのは死なせる為じゃない。真選組に戻りたいと言ったからだよ!!」
「おかあさん…。」
薙刀を手にした母の登場に、名字は頭を抱えて泣き出した。
「やめて、そんな事したらみんな打ち首だよ…。真選組の人は優しい、今ならきっと見逃してくれる。……かえって。」
嫌だ嫌だと駄々っ子のように頭を振って、弱々しく突き放す。
「いい加減にしなァ!!高杉名前なんて奴あの時死んだ!!!アンタは私の娘!名字名前だ!!斉藤隊長について行くんじゃなかったのかね!!」
初めて聞く母の怒声にビクリと顔を上げる。目を見開き顔を真っ赤にして全身で怒りを表していた。
母は名字の前まで歩みでると砂利の上で土下座をした。
「どうか!どうかこの子を見逃してやってください!!お願いします!」
「お願いします!!」
ザリザリと石が蹴り動かされる音と共に、町の人が土下座をした。銀時も神楽も新八までもが頭を下げる。
「どうして…?どうして?私が犯罪者なのは分かってるでしょう?……何でここまでするの?やめてよ、もう、やめて…。」
信じられないとばかりに口元を抑え、涙で濡れる瞳を憎々しげに細めた。
「局長!私の首をあげるから!この人達に何もしないで!!!」
悲痛な叫びが空を貫く。
すると隊士達の方から、砂利を掻き分けてこちらに進む足音が一つ。名字の前にヒラリと黒く長い隊服がはためいた。
「終…。お前、本気か。」
「終兄さん…。」
「……。」
斉藤が母の隣に立ちノートを見せていた。幹部らはその文面を見て目を見開く。斉藤は隊士達の方に振り向くとノートを掲げた。
[何かあった時名字さんの責任は、私が負いますZ。だから、真選組においてください。]
大きく太く力強い純黒の文字は、白いノートの上にしっかりと書かれていた。
静まり返る屯所。陽は完全に落ち冷たい風が全身を撫でる。
「俺も…。俺も責任を負います!!お願いします!」
隊士の一人が声を上げる。
「俺もだ!!」
「俺も!」
また一人また一人と声が大きくなっていく。
「私もよ!!!」
ザリザリと勝手口から女中達が騒ぎを聞きつけて、声高らかに叫びながら出てくる。
見ると隊士、女中、町の人たちが皆名字の為に頭を下げていた。
「…私……。」
胸の中に小さな光がパチリパチリと火花を放つ。その光はやがて数を増やし、大きく弾ける。バチリと勢い良く青い焔が燃え上がり、名字の瞳に一閃の光が灯る。
「私!まだ生きたい!!生きて兄を捕まえたい!この町の人たちを守りたい!隊長にまだついて行きたい!!お願いします!ここにいさせて下さい!!」
そう言って勢い良く地面に頭をぶつける。
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