いいえ、ありません。
「俺は反対だ。」
口元で紫煙をくゆらせる土方は、咎めるように言った。公事場から砂利敷に降りて名字の前に立つ。
「戦争に参加した、鬼兵隊に所属していた。これは覆すことができない許されざる事だ。処刑の対象だ。」
名字がゆらりと頭を上げると、月明かりが土方の上から差し込み暗く影らせる。顔が見えない筈なのに、烏木の瞳は鋭く光って見える。
「高杉名前は真選組において置けない。否、生かしてはおけない。それじゃあ、テメェらはまたこういう犯罪者が出た時、こうやって庇ってやるのか?」
隊士達は返す言葉もなかった。
土方はそれを見て鼻で笑うと、冷ややかに続ける。
「そうなったら、真選組は真っ当に機能しなくなる、一時の感情で動くな。」
キッと睨みつけると、誰しもが固まって動けなくなる。
「なァ、高杉名前。それでもここに居たいと言えるか、江戸を守りたいと言えるか、…兄を、高杉晋助を捕まえたいと言えるか?」
見下される眼光は、幾度と乗り越えたきた戦いの中で一番重く苦しい。土方と目を合わせなくても潰れてしまいそうだ。
斉藤はそんな名字を庇うように、土方の前に立った。
「終、退け。」
[無理だZ。]
「退け!!」
[何があってもここは退かないZ。名字さんは殺させない、私が絶対に。]
ノートを持って土方に迫る。じりじりと土方は退く事しかできなかった。
くいっと斉藤の動きが止まる。
「隊長、やめてください。」
斉藤の上着の裾を名字は握り締めていた。
名字の腕は震えていた。
「…わかりました、土方さん。私、高杉名前は罰を受けましょう。」
皆の息が飲む音が聞こえる。
「やめてくれ!!お前が死ぬことはない!」
「名前ちゃん!!」
「名前!オマエ!諦めるアルか!?」
「そうですよォ!銀さん!アンタも…。」
銀時は何も言わずに無表情にこちらを見つめるだけだった。それは、高杉名前の覚悟を無駄にできなかったからだ。
生きたいと叫んだ名前は確かにまだいるが、それ以上に高杉名前は皆を守る為二度目の死を迎えようとしていた。
名前の灯した焔は消える事なく、強かで静かな焔を高杉名前の瞳にも宿した。
髪を解き一本に結い直す。いつか斉藤に貰った髪飾りで、髪を首の下にまとめ上げる。
もう一方の髪飾りは胸の前で祈るように握る。
「ありがとうございます。私、こんなにも愛されていて、嬉しい。」
土方は名字を見て固まる斉藤を避けて、高杉名前の横に立つ。
「言い残すことは。」
「いいえ、ありません。」
「そうかよ。」
スラリと刀を抜刀し振りかぶる土方。
「待てェェェ!!トシ!まだ……!!」
キラリと月光を浴びて刀は氷のように煌めく。迷いなく振り落とされる刀は、高杉名前の首に落ちた。
椿の花が堕ちるように、白菫の髪飾りがぽとりと散った。
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