いってきます。
黒紫がふわりと風と舞い闇夜に溶け消えゆく。皆が目を覆い、嗚咽を漏らした。
「高杉名前は死刑。そう書いておけ、山崎。」
土方の声が淡々と響く。
慌てて手を離してしまった筆が、議事録の上にパタパタと墨の痕を残した。山崎は彼処を見ないように筆をそろそろと取ると確り書き記した。
「何で…。」
鈴が転がるような声がふるふると、寒々しい空の下に響いた。
「髪ってのは女の命なんだろ。」
土方はそう言うと刀をシャンッと納めた。
「まァ、確り働けよ……俺達全員の首がかかってんだ。」
ふわりと黒紫の絹糸が柔らかく揺れ、白い珠のような肌を踊る。
「三番隊副官、名字名前!!」
そう土方が言うと、皆は顔を上げてそちらを向いた。
「はい!」
「ト、トシィィィ!!!」
近藤が滝のようにとどめなく涙を流すと、皆が名字の周りに駆け寄った。
「名字!!」「お前心配かけんな!」「本当世話にやけるやつ…。」「オメェ一回も世話した事ねェだろ!」「名前よかったアル!」「名前ちゃあああん!!」「明日のおやつは苺大福ね!!」「名字サァン!!」
人がわちゃわちゃと揉み合いになりふらつくと、斉藤が後ろから肩を支えてくれた。
「隊長。」
赤と紫の瞳が混じり合う。
赤には楽しそうな人だかりがきゃあきゃあと映りこみ華やぐ、紫には星々が煌めきあい月が瞳を輝かせる。二人は語り合っているように、目を見合わせたまま動かなかった。
ひやりとそよ風が二人の間に入り込むと、名残惜しそうに目を離した。
星の瞬きのように、ほんの一瞬の出来事だった。
「名前。」
「おかあさん。」
周りが静かになり、名字達の周りに空間ができる。
「名前、アンタは本当親不孝者だよ。」
「うん、ごめんね。」
「これから、名字の家の子のして幸せにしてもらわないとねェ。」
母がちらりと斉藤の方を見ると、斉藤はカッと顔を赤らめた。
「約束する。」
名字は後ろの斉藤の心などつゆ知らず、母の目を見据えて言う。
「……そうかい。なら、もう一度信じてやるさね。」
母に駆け寄り名字は抱きつく。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
少し不安になって一度斉藤を見る。暖かく優しい紅に背中を押されるような感じがして、つんのめるように公事場の前に出る。
座敷に座る沖田、土方、近藤を前に静かに膝を折る。そして江戸に響き渡るように吠えた。
「三番隊副官名字名前!!只今戻りました!!!」
草木を揺らす烈風が吹き荒れる。サラサラと揺れる髪は短く、瞳には凛々しい獣を従わせていた。
名字名前は決意を灯した。
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