朝から何が?
真選組の朝は早い。まず7時から朝礼が始まる。
現在7時20分。朝礼は未だ始まっていなかった。
何故なら真選組唯一の女隊士、名字が来ていないからだ。
普段隊士の一人や二人いないだけで待っていることは無い。だが、名字を初めての朝礼のこの場で挨拶をさせるべく待っていたのだ。
「おせェ…。」
苛立ちを隠す事なく土方は呟いた。
さすがに隊士の一人とはいえ、少女の部屋に勝手に入る事もできない。皆待つしかほかなかった。
斉藤も一応は部下なので気にしてはいるが、名字を呼びに行こうとする度、緊張のあまり腹痛をよび厠へ三度ほど駆け込んだ。
しかし、いつまで経っても名字が来る様子はない。意を決して斉藤は名字の部屋の前まで来た。
コンコン。竪框(たてがまち)の部分を叩いて中を伺う。
布の擦れる音がするだけだった。彼女はまだ寝ているのだろう。
「……、…。」
名字の名前を呼ぼうと斉藤は口を開いたが、彼女の名が音になることは無かった。
ググッ。下っ腹が苦しそうに呻く。限界だ。
斉藤は厠へ足を進めた。
「んん。」
名字の声がしてピタリと足を止めた。
そうだ、彼女を連れていかねば。
また名字の部屋の前まで来てコンコン、と竪框を叩いた。
やはり反応はない。
スッと障子戸を開ける。
真ん中にひかれた布団の上には、浴衣をはだけさせた女性が寝ていた。
「……ッ!?」
バッと顔を背ける。
昨日の少女と同じ人のはずなのに。
チラリと視線を戻す。
女は光を浴びて鮮やかな紫になった髪を、さらさらと流し、白い肌がよく映えて見えた。
惜しげもなくさらけ出された脚は、細く滑らかでシルクのような艶やかさがあった。
朝日に包まれる女は神秘的で扇情的であった。
名字を見ていられなくなり、上着を脱いで彼女に被せ抱き上げる。
暖かな名字の体温にひどく落ち着いたような気がした。
腕もお腹も痛くなかった。
朝礼の場に名字を抱えたまま連れていくと、隊士達は戸惑いの声を上げた。
「誰だあれ。」「斉藤隊長の彼女か?」「今連れてくる奴がいるか。」
ボソボソと話す声がする。
彼女にかけた上着をそっと上へ上げる。
ごほん。っと咳払いする声が聞こえた。
「終、朝礼に彼女紹介の義務はないぞ?」
すこし不機嫌そうに言う近藤にやっかまれた。
「隊長……?」
騒がしさに目を覚ました名字は迷惑そうに周りを見渡す。
「え、名字?!」
近藤が意外だと言わんばかりに声を上げた。
「朝から何が?」
くいっと上着で自分の体を隠し、名字は寒そうに斎藤にくっついた。
「朝!礼!だ!!!!!」
起きろこの野郎!!と斉藤にしがみつく名字の後頭部をスパーンと叩いた。
騒がしくいつもより遅い朝礼が始まった。
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