※10話以降の閑話
※轟視点で短短短文



[ 国民に癒しを届ける謳うヒロイン事Divaが、活動を狭める方針を決定致しました ]




風呂上り水を飲みに居間へ訪れると、一番上の姉がテレビをつけていた。
この時間は大体ニュース番組をかかさず視聴する姉を尻目にコップにペットボトルから注ぎ、喉へと流し込む。そんな最中に聴こえたのが、先程のキャスターの報道だった。
コップから唇を離し、液晶画面が見やすい位置へと移動し、柱に背を預ける。液晶画面にはDivaが被災地に訪れた際のライブ映像が流れているようだった。

紫色の髪に、女性らしい曲線とその豊満な身体。艶やかな彩りを放ちながらも男女ともに人気の美貌。
似ても似つかないはずだが、その碧眼だけは同じ色彩を放っていた。



「瞳、か…」



腕を組みコップを片手に揺らす。まだ濡れている毛先から滴が畳へと垂れた。
あの悠然とした態度、戦闘に対する好戦的なまでの表情……類似点はそんなところだ。だが、そんな女はヒーローならばごまんと居る。特記すべき事項ではないし、気にする必要もない。だが……果たしてあの碧眼を所持した女でこれらの要素を備え持つ女が果たして何人居るだろうか。はたまた存在しているのかも怪しいところだ。



[ Divaは活動停止とまではいかないと発表していますが、元々メディア露出を控えていらっしゃるので、今後はますます拝見することは困難ということになるのでしょうか ]
[ そうでしょうね。いやー僕も彼女の歌声のファンだからこれからますます聴けなくなると思うと残念です ]
[ 落胆すると見越しての発表なのでしょうか。この度数ヶ月ぶりの新曲を来月発売する予定だそうです。次に遭遇する方はこちらの新曲を直接耳にすることが出来るかもしれません ]


「そうなんだ…残念だね焦凍」
「何がだよ」
「好きでしょ、Divaのこと」
「―ッ―」



姉の言葉が一瞬わかりかねた。
いや、理解した。脳が言語を理解し、通常通り処理をしようとした。
それはまるで息を吸うように、口から語彙を発しようとしたんだ。

だが、実際口から出たのは言葉ではなく、何にも変化を遂げることがなかったモノだった。
それを悟ると俺は口元を手で覆い、自身が何故その経緯に至ったのか廻る。だがそんなもの甦らせずとも簡単に浮かびあがってきた。



「新曲のCD買ってきてあげるね」
「あ……、ああ」



柱から背を離し、片手に握っていたコップを流し台へ置く。そのまま普段同様に、自室へと戻って行った。室内に入り、戸を閉めてから俺は自身の机の上に置かれたコンビニの袋へ視線を向けた。
中身はもう既に食べてしまったが、その変哲も無い袋だけはどうにもゴミ箱の袋に使用することも出来ずに、律儀にとっていた。
はあ、と何だか熱の篭った息を深く吐き出してから首にかかったタオルで髪をがしがしと拭き出す。



「なんであいつが出てくんだよ」



あの時、俺は邪神の不器用な表情を思い出していた。
絵画のような優美な微笑を浮かべるDivaではなく、顔を歪ませて笑えない表情を浮かべる不器用な邪神という女子生徒の顔を……思い出していた。


だから、俺は邪神を疑わずにはいられない。


類似点は唯存在する。
この時期での活動範囲を狭める公表。それは学校に通い始めたからではないか。
同じ碧眼なのは、同一人物だからではないか。
担任との不適切な距離なのは―――生徒ではないからじゃないか。


あいつは……一体、何者なんだ―――?


それがDivaに対する探究心からなのか、それとも個人的から来るものなのか。俺にはまだこの衝動的な感情に名をつけることが難しい。



「邪神」



白髪を束ねた髪が揺れる。負けじと色素の薄い肌が、あの淡い碧眼が硝子のように俺を映し出す。



『……!ト●ロさん!』
「著作権で捕まるぞ」



いやー、失敬。 と頬を人差し指でかきながら笑う邪神。
昨夜観た映画に出て来たそうだ。俺の苗字と似ているからと当てずっぽうで発言したと理由まで話してくれた。
教室までの道のりを並んで歩くことは初めての事だった。あまり時間が重なることが少ない。単に相手が始業時間ギリギリに登校してくるからなんだが。



「いい加減に憶えろよ」
『面目ないです。とろろくん』
「朝ごはんだったのか?」
『よくわかりましたね!……ところで。何か質問があったんじゃないんですか?』



探るような視線が注がれる。相手から訊いてくるとは好都合だと思い、開きかける唇だったが……。



「別に用はねえよ」
『え゛ぇ…嘘言ってませんか』
「お前に声をかけるのに用がなきゃ一々声をかけちゃいけないのかよ」
『別に駄目じゃないですが…』
「詮索する奴は嫌いなんだろ」



立ち止まった俺に倣って、邪神も止まる。
驚いた表情をしながらも、あいつはやっぱり笑っていた。



『エープリルフールは終わってますよ』
「また凍らしてやろうか」



To be continued..........


青春は甘いだけじゃない。苦いだけでもない……笑いだけである。
ごめんなさい……轟くん。あなたもツッコミ要員みたいです。



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